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津村記久子さん新刊「やりなおし世界文学」インタビュー 作家がいざなう読書の世界

津村記久子さん

名作の楽しさ追体験

 「華麗なるギャツビー」って誰? どれだけ華麗なの? 「ねじの回転」は家具の組み立ての話?

 大阪出身の作家、津村記久子さんが、そんな素朴な疑問や興味をもとに古今東西の名作と出会いなおす新刊「やりなおし世界文学」を出した。旅のおみやげ話を聞くように、読書の楽しさを追体験できる一冊だ。

 紹介するのは純文学の古典的名作からSF、ミステリー、児童文学に「孫子」や「君主論」まで92作品。「名前はよく聞くけど読んだことのない本」をコンセプトに、2013年から雑誌やウェブで連載した同名の企画を一冊にまとめた。

 米国人作家ビアスによる冷笑と皮肉にみちた警句集「新編 悪魔の辞典」には「ほんとにこのおっさん愚痴止まんねえな」。推理小説におけるアリバイ崩しの金字塔として名を残すクロフツの「樽(たる)」には「『樽萌(も)え』というものすごく特殊な気持ちも扱っている小説でもあると思う」……。

 毒舌や関西弁のツッコミもまじる語り口は軽快で気負いなく、本好きで話し好きの友人のおしゃべりを聞いているかのよう。文学や古典という硬い響きに構える心をほぐし、作品の世界へといざなってくれる。

 「我ながらひどい読み方をしたなあ、というものもあります」と津村さんは苦笑する。ある小説ではどうしても主人公の「ノリについていけ」ず、困った末に実在のサスペンス俳優を思い浮かべて読み進めた。

 「でも、本に正しい読み方というのはないので。せっかく自分の手元に来てくれた本は楽しく読みたい。読書ってこんなんでいいんや、と思ってくれたら」

 最も熱中して読んだのは、カミュの「ペスト」という。舞台は未曽有の伝染病に襲われた小さな港町。人々は日常を失い、友人を失い、自身の命を脅かされながらも、理不尽な運命に抵抗することを諦めない。

 登場人物たちはどうなってしまうのか。友人を心配するような気持ちで寝食を忘れてページをめくり、ある人物がたどりついた境地に胸を打たれた。「失うことに勇気を持てる小説。価値のあるものを持ち続けていることだけが正しいのではなく、失ってもそこから何かを受け取れたならそれでいいと教えてくれる」

 92冊の読書体験を通じ、改めて感じたのは「本は友人である」ということだ。「自分は孤独だ、理解されない、と思っていても、どれかの作品の誰かはわかってくれる。欠落した自分や共感できない他人をどう受け入れて生きていくか、本はヒントをくれるんです」(尾崎希海)=朝日新聞2022年7月28日掲載