似顔絵やものまねは、実物と全く同じよりも、まねるポイントや、デフォルメの方法に味がある方が魅力的だ。つまり、リアリティーはどこからくるのか、という問題だ。
本書に登場する昆虫たちの擬態も、見どころ十分。その名の通り、木の葉そっくりのコノハムシや、枝になりきるナナフシは植物をまねる。木の幹やコケ、地面の質感そっくりになったり、草むらに隠れたり、と姿を消す連中はさしずめ、忍者系だ。
中でも驚くのは、より強い生物や嫌われ者に扮するタイプ。体のくびれまで似せ、アリにしか見えないアリグモや、どう見ても「極彩色の蛇」のツマベニチョウの幼虫などだ。
昆虫写真家である著者によると、鳥などの目を欺くための擬態とのこと。しかし彼らは、人間と違って、鏡や写真で自分の姿を確認することができない。なのにこの完成度。リアリティーはどこからくるのか、という問いに、また一つ謎が加わった感がある。=朝日新聞2022年8月6日掲載