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「日本の知、どこへ」書評 多角的な分析と長期的な検証を

評者: 石原安野 / 朝⽇新聞掲載:2022年08月20日
日本の知、どこへ どうすれば大学と科学研究の凋落を止められるか? 著者:共同通信社「日本の知、どこへ」取材班 出版社:日本評論社 ジャンル:自然科学・科学史

ISBN: 9784535789500
発売⽇: 2022/06/14
サイズ: 19cm/279p

「日本の知、どこへ」 [著]共同通信社「日本の知、どこへ」取材班

 基礎科学研究の重要性と日本におけるその危機的状況について語られることが増えている。日本の科学技術力指標は年々低くなり続けており、日本人が最も科学者に注目する機会であるノーベル賞受賞者の会見は、受賞対象となった研究成果を生み出した時代に比べて近年の研究環境が劣化していることへの危機感表明の場となっている。
 一方で、日本では基礎科学の大切さに対する理解や、科学を純粋に楽しむ心があるとも感じている。製品化に向けた研究だけではなく、いつどのように役に立つかわからない多様な研究が、将来の成果につながる種となる。その重要性の認識は日本社会の成熟度を示す指標といえるのではないだろうか。しかし、現状では実際の研究活動に反映されているとは言えない。それどころか、「面白さ」に突き動かされるような研究は縮小を続けている。
 本書は4人の記者による取材を通し、18の異なる観点から、大学での科学研究に対する近年の政策、それがもたらした影響を考察する。
 大学の役割を端的に表せば研究と教育だろうが、そのありようは幅広い。本書から見えてくるのは、一面的な指標を用いた評価の不十分さ、そして、多角的な現状分析と施策の長期的な検証の必要性だ。
 現状打破のために新たな施策を行うことが悪いわけではない。しかし、それがどのようなデータに基づいたものか、大学の多様性に対応できるのか、後日の第三者による検証が可能かを明らかにしておく必要がある。大学側も予算を人質にとられ、次々と上から降ってくる施策にただ従うのではなく、自らその将来像を提供していくことが求められている。
 日本の科学技術力の基盤であり続けるために、社会の一部として発展を続けるために、大学はどうあるべきか。ひとりひとりが身近な問題として考えるきっかけになり得る一冊だ。
    ◇
2019年5月に始まった連載企画のため、社会部と編集委員室の4人の記者で発足。2021年3月まで配信した。