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桜木紫乃さん「孤蝶の城」インタビュー 痛み伴う「本物」の生き方

桜木紫乃さん

 タレントのカルーセル麻紀さんをモデルに、北海道・釧路出身の秀男が「カーニバル真子」となり、芸能界で生きる姿を書いた。青春期を描いた『緋(ひ)の河』(2019年)に続く本書は、1973(昭和48)年、秀男がモロッコで下半身の手術を受ける場面から始まる。〈見た目をどんなに女陰に似せようと、この体にとっては「傷」なのだった〉。体の奥に刻んだ「傷」の痛みを感じながら、激動の半生を歩む。

 「女か妖怪か」と週刊誌に見出しが躍る秀男は、〈あたしは、あたしの本物にならなくちゃ〉と、自身との闘いを続ける。読者は、口でいうのは簡単な「自分らしく」あることが、いかに細く険しい道かを教えられる。「オリジナルって、痛いもの。なぜいま、この時代のこの人を描くのか。泣いて認めてもらおうとする子どもではなく、泣かないで生きてきた人の声に耳を傾ける時なんじゃないかと、書いてから時間が経って思いました」

 オール読物新人賞を受賞して今年で20年。「小さいころからの疑問を解決するために小説を書いていて、今回、大概、生きることの答えが出た。そんな主人公は、カーニバル真子しかいなかった」

 麻紀さんに小説に書くことの承諾は得たもののあえて取材はせず、どのインタビューでも語られなかったことを書いた。「内側のことは一切言わない方。書き応えがありました。古い週刊誌の記事、本人の著作、追えるだけの資料を追っても、語らないところがちゃんとある」

 幼なじみから秀男へあてた手紙には、自身の思いをそのまま託した。それほど、自在に筆を振るった。「気分は素人。楽しくってしょうがない。本にならなくてもいいやとまで思ったのは、(11年刊行の長編)『ラブレス』とこの2冊だけです」成させると決めた。どんな人間も「今」を生き抜くのみ。それもまた、カタルーニャの人々に教えられた人生の真実だ。(文・興野優平 写真は本人提供)=朝日新聞2022年8月20日掲載