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「富士山はいつ噴火するのか?」書評 大胆な比喩交え複雑さ読み解く

評者: 行方史郎 / 朝⽇新聞掲載:2022年08月27日
富士山はいつ噴火するのか? 火山のしくみとその不思議 (ちくまプリマー新書) 著者:萬年 一剛 出版社:筑摩書房 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784480684325
発売⽇: 2022/07/07
サイズ: 18cm/223p

「富士山はいつ噴火するのか?」 [著]萬年一剛

 前回の噴火から300年以上たった。「次」がいつ来てもおかしくないが、いつかはわからない。そんなファジーな状況をわかりやすく解きほぐした1冊だ。
 地球の表面を覆う「プレート(岩板)」と、それがマントルに沈み込んだ「スラブ」の関係を「ハマチとブリ」になぞらえるなど、大胆な比喩が異彩を放つ。
 噴火のメカニズムを「ししおどし」に見立て、解説を試みる第4章はその真骨頂だろう。竹筒の中に水がたまってゆき、いっぱいになると、シーソーのように反転して「コン!」と音を立てる、あれである。
 むろん地下のマグマは一定の割合でたまるとは限らない。富士山の「マグマだまり」は深さ約20キロにあるらしいが、どのくらいで噴火するのかもわからない。噴火場所の予測が難しいのもこの山の特徴のようだ。
 それでも「ししおどし」をモデルに過去の富士山のデータを落とし込んだ著者作成のダイヤグラムを見れば、来たるべき噴火への理解が深まるに違いない。
 竹取物語や更級日記に描かれた富士山(当時は噴煙を上げていたらしい)の読み解きも目からうろこで読み応えがある。思えば数十年おきに世代交代していく人間に比べ、噴火のサイクルはあまりに複雑で長い。火山研究における古い書物の重要性がよくわかる。
 軽妙なタッチで、ときに横道にそれながら話題が展開してゆく。本人が面白いと思って書く文章は往々にして読む側にとってはつまらないものだが、たぐいまれなセンスと表現力に助けられている。研究者が書く本は引用文献の多さに圧倒されることも多いが、最小限に抑えてあるのにも好感を持った。
 本書で紹介されるデータを都合よくつまみ食いすれば「間近に迫る」「被害は計り知れない」を強調する記事などいくらでも書けそうだ。そういう方向には安易に流されないところに私は著者の科学者としての誠実さと自負をみた。
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まんねん・かずたか 1971年生まれ。神奈川県温泉地学研究所主任研究員。著書に『最新科学が映し出す火山』。