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東浩紀さん「忘却にあらがう 平成から令和へ」インタビュー 市井の視点・生活感から

東浩紀さん

 団塊ジュニア世代を代表する哲学者・批評家で、トークイベントや映像配信を手がけるメディア企業の経営者。だが、時事問題は「得意ではない」。芸能やスポーツも「ほとんど興味がない」。率直に「ただの市井の人間」だと自認する。

 2017年から今年4月まで5年余、131回。週刊誌「AERA」上で今も続く隔週の連載コラムをまとめた。振り返って気づくのは人々の「忘れっぽさ」だという。

 「5年で世論が刹那(せつな)的になった。多くの論点が浮上し、国政選挙を繰り返しても議論が積み上がらない」

 連載開始当初は築地市場の豊洲移転や「共謀罪」法案を扱った。「何が問題で誰が何をどう論じたか。誰も覚えておらず気にもとめない」

 東日本大震災の「忘却」も12年目に入った。「事故を起こし、廃棄物処理の技術が未確立の原発は倫理に反する。でもエネルギー源は確保しないと。矛盾を飲みこんで大きな国のかたちを考える議論が足りない」

 SNSでは今この瞬間、耳目を集める言動ばかりがうける。最近ツイッターでの発言をやめた。言論人や経営者の立場と両立しないからだ。

 「若者扱いされなくなって足を引っ張られ、伸び悩む同世代も多い。同じ轍(てつ)は踏みたくなかった」

 変わらない日本社会の問題に直面し、市井の視点や生活感が大事だと痛感した。「知床の観光船や安倍晋三元首相銃撃の事件も、経営者、イベント運営者として実務的にどう安全を確保するかを考えさせられる」

 もっとちゃんとやらないと。その口ぶりは論客の「保守化」なのか。

 「保守はしぶとく勝ってきた。でも、ぼくはずっと、ちゃんとしたリベラルに期待してきたつもり。それには地道な積み上げが欠かせない」

 民主主義を諦めず、ネットから離れたリズムを刻む。(文・大内悟史 写真・伊ケ崎忍)=朝日新聞2022年8月27日掲載