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「6カ国転校生 ナージャの発見」書評 「ふつう」であろうとして気づく

評者: 宮地ゆう / 朝⽇新聞掲載:2022年09月03日
6カ国転校生ナージャの発見 著者:キリーロバ・ナージャ 出版社:集英社インターナショナル ジャンル:旅行・地図

ISBN: 9784797674132
発売⽇: 2022/07/05
サイズ: 19cm/163p

「6カ国転校生 ナージャの発見」 [著]キリーロバ・ナージャ

 幼いときに、学校を転校するのは、世界が変わるような一大事だ。私も小学校を1度転校したので、その緊張感はよくわかる。ましてやそれが外国で、さらに毎年違う国だったら……。
 本書は、小1から中3まで6カ国の学校に通った著者の目を通じて、各国の学校の違いをイラストとともに描いたユニークな本だ。
 旧ソ連・レニングラード(現サンクトペテルブルク)に生まれた著者は、数学者の父と物理学者の母に連れられ、ロシア→日本→イギリス→フランス→日本→アメリカ→日本→カナダ→日本と転校した。まさにプロの「世界転校生」だ。
 国が替われば学校生活もがらりと変わる。筆記用具一つをとっても、鉛筆を使う日本、イギリス、アメリカ、カナダに対して、ペンを使うロシアとフランス。書くことに対する考え方の差が表れるという。
 テストも、何度もやり直させて褒めて伸ばすアメリカに対し、フランスでは20点満点で16点以上はなかなか取れない。先生いわく、満点は「人生で何度かしか起きないようなことだ」。
 水泳の授業は、ロシアではスピード重視、日本は形重視。アメリカでは海で死なないことが目的で、長く水に浮くことを教える。
 各国の学校がすべて同じではないだろう。だが、学校生活の細部には、その国の文化や価値観が色濃く反映されている。こうして幼い頃、理由もわからず教え込まれることは、大人になっても容易に消えない。
 読むうちに、考えたこともなかった疑問が次々とわいてくる。なぜ体育の授業で整列するのか。なぜ数学の授業で、計算機を持ち込めないのか。
 どこにも正解はない。国が替われば先生の言うことも百八十度変わる。各国で「ふつう」であろうとしてきた著者は、「ふつう」って何だろうと自問する。
 学校は、何を教えるための場所なのだろう。そんな根源的な問いを、深く、楽しく考えさせられた。
    ◇
Nadya Kirillova  クリエーティブ・ディレクター、コピーライター、絵本作家。著書に『ナージャの5つのがっこう』など。