水草水槽とは、魚よりも水草が主役のアクアリウムのこと。水草だけでなく岩や砂も上手に使って、水中に箱庭を作って楽しむ。魚はあくまで引き立て役だ。
水草を鑑賞して何が面白いの?と思う人は、一度見てみることをお勧めする。そこにはミニチュアのジオラマに通じる魅惑の世界が広がっている。今では世界コンテストも開かれ、グランプリ作品の写真を見ると、水槽の前に座っていつまでも眺めていたくなるほどだ。清涼感があるし、適度に込み入った景色が見る者を飽きさせない。
「AQUA PLANTS」は、そんな水草水槽の専門誌である。作り方から鑑賞法、そして専門家や読者の水槽写真などが掲載されている。まだまだファンが少ないのか、年に1回しか刊行されないが、そのぶん未経験者でもついていけるわかりやすい誌面になっている。
最新号の特集は「60cmレギュラー水槽レイアウト」。コンテストで受賞する作品は大型の水槽ばかりだが、レギュラーサイズでもこんなに楽しめますという企画だ。掲載されている写真はどれも水墨画のような深山幽谷の雰囲気が感じられ、こんな水槽が家にあったらきっと楽しいにちがいない。ジオラマが好きで水中の生きものが好きで盆栽にも興味がある私は、今すぐにでも取り組みたくなったが、旅行で長く家を空けることが少なくないのと家が狭いことから、今は我慢しておく。始めると水槽ひとつでは飽きたらず、家じゅう水槽だらけになりそうだ。
連載記事は少なめだが、「コンテストで勝つために……!」と題された対談が読みごたえがあった。ベテランたちが過去作品を批評しており、それぞれの作品にこめられた意図やそのユニークさがよくわかる。面白いのは受賞者にベトナムや台湾、韓国やマレーシアなどアジア圏の人が多いことで、盆栽文化圏の底力を感じさせる。作品はどれもファンタジー映画でも見ているような濃厚さだ。
コンテストで4位になったこともある漫画家タナカカツキ氏の漫画エッセイにも共感した。最初に道具を買い揃(そろ)えたときの、すぐに飽きたらどうしようという不安と、できあがった水槽を眺めているときの宇宙を見ているような感覚。なんかわかる。
水草水槽では魚は脇役のようだけれど、私ならむしろ自分が魚になった気分で楽しんでみたい。水族館に行っても、水槽の中が殺風景な箱だとがっかりする。魚にもきっと探求心があると思うからだ。その点、水草水槽の魚は満足しているにちがいない。
と、どっぷりハマってしまった本誌だが、8月のコンテスト前に発売するのはなぜだろう。作品の写真や講評が読みたいので、直前の刊行は惜しい気がする。あと途中に水槽と関係ない塊根植物の記事があるのが唐突だった。=朝日新聞2022年9月3日掲載