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「市民的不服従」書評 分類し検討 法の尊重が生命線

評者: 犬塚元 / 朝⽇新聞掲載:2022年09月17日
市民的不服従 著者:ウィリアム・E.ショイアマン 出版社:人文書院 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784409241486
発売⽇: 2022/07/27
サイズ: 19cm/315p

「市民的不服従」 [著]ウィリアム・E・ショイアマン

 平和的な抗議運動が、道路や公園を違法に占拠したら、恥ずべき無法であり破壊活動だとみなすべきか。各地の民主化運動を顧みれば、それだけではあまりに乱暴な評価の仕方だろう。
 ガンディーやキング牧師の非暴力運動は、「市民的不服従」と呼ばれてきた。これは、政治的動機による違法行為のうち、正統性があるとされるものに与えられてきた名称だ。だが、この言葉の意味は曖昧(あいまい)で、分かりにくい。政治に関わる多くの言葉と同じように、言葉の定義自体が争われてきたからだ。そこで本書は、市民的不服従をいくつかのタイプに分類して、概念の交通整理をしていく。
 これまで市民的不服従は「良心的不服従」の同義語とされることも多かったが、著者は宗教的なタイプの市民的不服従と、リベラルなタイプを区別することで、この理解を退ける。個人の宗教的・道徳的良心を土台とするのは全てのタイプの市民的不服従に共通するわけではないし、なにより多元的な社会では必ずしも適切でないからだ。次に民主的なタイプが登場する。著者は、社会変革をめざすこのタイプを描くことで、市民的不服従は現状を維持するだけとの批判に応える。
 そのうえで、この本は、これら各タイプの共通点を拾いあげる手法で、市民的不服従の標準モデルを示している。強調されるのが、「法への忠誠」だ。法を尊重するがゆえに服従を拒む。このロジックこそが、市民的不服従の生命線であるというのだ。だから、法や国家を一律に否定する、アナキズムのタイプに対する著者の点数はすこぶる辛い。市民的不服従の標準的要素として併せて強調されるのは、自分たちの仲間以外も対等な同輩とみなす敬意(「礼節」や「非暴力」)だ。これは、何度でも立ち返るべき指摘だろう。
 服従か暴動か。そんな二分法に陥ることなく、両者に挟まれた領域を、いかに厚くしていくか。この本がなにより教える課題だ。
    ◇
William E.Scheuerman  米インディアナ大ブルーミントン校教授(政治思想、民主主義、国際政治理論)。