「ペンギンもつらいよ」書評 よたよた歩くのは可愛いけれど
ISBN: 9784791774777
発売⽇: 2022/07/25
サイズ: 19cm/223p
「ペンギンもつらいよ」 [著]ロイド・スペンサー・デイヴィス
水族館や動物園の人気者、ペンギン。地上ではよたよたと不格好な足取りで歩く姿が大変愛らしい。一方、水中では敏捷(びんしょう)かつ見事なコントロールで魚のように泳ぐ。そんなペンギンについて書かれた本であるが、豆知識がちりばめられた図鑑などとは一線を画す。
著者は著名なペンギン研究者であると共に、ニュージーランドで最初にできた大学、オタゴ大学のサイエンスコミュニケーションセンターの初代センター長を約10年間務めた人物。ユーモアたっぷりの語り口でペンギンの世界を描き出す。ただし、神話化はきっぱりと拒絶。科学者の厳しい眼差(まなざ)しで、ペンギンがなぜ今の特徴や生態を持つに至ったのかを解き明かすところが、本書の神話解体新書たる所以(ゆえん)であろう。
我々がペンギンに魅せられる理由はペンギンが人間のように直立歩行をするからだ、と切り込む。ペンギンは短足で、直立姿勢をし、足の骨は太く短い。だから、可愛い。
ペンギンが直立歩行を可能とする足を獲得したのは泳ぐためだ。水中で受ける抗力を軽減する位置につき、舵取(かじと)りとしての役割を果たす。また、空を飛ぶことと深い海を速く泳ぐこととは両立しない。ペンギンは海の中でエサをとることを選んだ結果、飛ぶ能力を失い、捕食者のいない場所を求め零下60度以下にもなる南極や、40度を超える砂漠を繁殖地と定めた。
祖先は飛べたというペンギンが、泳ぐ能力の代償として、飛翔(ひしょう)能力以外にも失ったものがある。それが何かを本書は考えさせる。
人類がおよそ500万年前に誕生するよりはるか前、約5千万年前から地球に生きるペンギンは、エサを海の中に、繁殖地を陸地に確保することで、繁栄してきた。しかし、現在の地球には人間がいる。脆弱(ぜいじゃく)な種となった“可愛いペンギン”と共存する未来は、人類が作り出さなければならない。
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Lloyd Spencer Davis 1954年生まれ。ニュージーランドのオタゴ大教授。生物学者。ペンギン研究の世界的権威。