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「縄文人と弥生人」書評 日本人の起源は 時代映す学説

評者: 藤野裕子 / 朝⽇新聞掲載:2022年09月24日
縄文人と弥生人 「日本人の起源」論争 (中公新書) 著者:坂野 徹 出版社:中央公論新社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784121027092
発売⽇: 2022/07/20
サイズ: 18cm/301p

「縄文人と弥生人」 [著]坂野徹

 何千年も前の歴史は、現代とは切り離された、独特のロマンがある。そう考える人にこそ、本書を手に取ってほしい。歴史の見方が変わるはずだ。
 人類学・考古学は、日本人の起源をどう考えてきたのか。本書は縄文人・弥生人という区分を軸に、明治期から現代に至るまで学説の変遷を追う。
 日本人の祖先は縄文人なのか、弥生人なのか。このように問う時、日本人はこうでありたい/こうであるはずだという自画像がそこに込められる。本書全体を貫くのは、学説には研究者が生きた時代が期せずして映り込むという視点だ。
 大正期には、記紀に依拠して、縄文土器を使う先住民アイヌを、弥生土器を使う日本人の祖先が征服したとする説が有力だった。その背景には、帝国の領土拡大があった。これに対し、古人骨を分析して、日本人は縄文人と弥生人との混血で生まれたのであり、人種は連続するという説もあった。アジア太平洋戦争期には、再び記紀が用いられ、皇国史観や大東亜共栄圏の構想と矛盾しない学説となる。戦後になり、日本人の起源を在来の縄文人と渡来系の弥生人との混血とする説が定着した。
 著者はこれらの学説が自明としてきた事柄を問い直す。一つは、縄文・弥生の区分は絶対的かという点だ。ゲノム解析を用いた近年の研究では、この2区分だけではなく、より多元的な区分が提唱されている。
 もう一つは、「日本人」とは誰かという点だ。日本には多様なエスニック・グループが暮らしており、それぞれの起源がある。今後日本社会がより多様化すれば、「日本人」の起源を探すこと自体が意味を持たなくなるだろうと著者はいう。
 歴史を明らかにする行為は、今の時代のあり方や、これからの社会への欲望を浮かび上がらせる。とすれば、現在、縄文人と弥生人の差異に関心が集まるのはなぜなのか。一考の価値がありそうだ。
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さかの・とおる 1961年生まれ。日本大教授(科学史、人類学史、生物学史)。著書に『帝国日本と人類学者』など。