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谷川俊太郎さん、対談集刊行でトークイベント「詩を書くこと、いまだに退屈しない」

谷川俊太郎さん(右)×内田也哉子さん(左)対談

「繰り返しに命の本質がある」

 詩人・谷川俊太郎さんと文筆家・内田也哉子さんのトークイベント「ひとりっ子の相談ごと」が9月に東京・代官山蔦屋書店であった。『人生相談 谷川俊太郎対談集』(朝日文庫)の刊行記念。谷川さんと20年来の付き合いがあり、同書の解説を担当した内田さんが、詩作や平和をテーマに谷川さんの考えを聞き出した。

 本書には、谷川さんの父で哲学者の徹三さん、長男で作曲家・ピアニストの賢作さんのほか、外山滋比古、鮎川信夫、鶴見俊輔、野上弥生子の4氏との対話が収録されている。

 内田さんが、「自分の(書いた)ものに本当に満足したことないの」と言った野上弥生子に触れると、谷川さんは「同感ですね。自分が詩の世界で成長していないという意識がある」と語り、こう続けた。「でも、いままでにない仕事をしたいという気持ちは変わらず持っている。そういう意味ではまだ若々しいんじゃないかな。若々しいってばかばかしいと音が似ているでしょ」

 内田さんは、谷川さんが以前のインタビューで「人間は、ずっと平和を経験していると必ず刺激が欲しくなる。だから戦争ではなく、刺激に代わるものを想像力でつくっていかないといけない」と話していたことを紹介。母である俳優、樹木希林との思い出にも触れた。「母は二度結婚している。最初の人との生活があまりにも平和で、その平和をぶちこわしたくなったとわたしに言っていたんです。やっぱり人間って、どうしても刺激が欲しくなってしまうんでしょうね」。ロシアによるウクライナ侵攻が続くなか、自分たちにできることは何かと内田さんが問いかけると、谷川さんは「毎日の生活をちゃんと送ること。コンスタントに生きているということが、アンチテーゼになる」と話した。

 会場の参加者から、「すばらしい飽き方はあるのでしょうか」と質問があがると谷川さんは、「同じことを繰り返していることに命の本質がある、と納得したほうがいい」と応じた。「機織りも同じことの繰り返しでしょ。それで布ができていく。繰り返しのなかで新しいものができていくのだと感じられれば、退屈じゃなくなる」。1952年に詩集『二十億光年の孤独』でデビューして70年。「創作するものがあれば、退屈からは免れられる。僕はいまだに、詩を書くことに退屈していないんですね」(田中瞳子)=朝日新聞2022年10月12日掲載