「関東大震災 描かれた朝鮮人虐殺を読み解く」書評 絵から明かされる官民一体での行為
評者: 藤野裕子
/ 朝⽇新聞掲載:2022年11月05日
関東大震災描かれた朝鮮人虐殺を読み解く
著者:新井 勝紘
出版社:新日本出版社
ジャンル:歴史・地理・民俗
ISBN: 9784406066815
発売⽇: 2022/08/10
サイズ: 19cm/158p
「関東大震災 描かれた朝鮮人虐殺を読み解く」 [著]新井勝紘
出来事のもたらした衝撃の大きさゆえのことだろう。1923年の関東大震災直後には、朝鮮人虐殺の絵が描かれた。本書は、柳瀬正夢(やなせ・まさむ)・堅山南風(かたやま・なんぷう)・萱原白洞(かやはら・はくどう)の作品や、小学生が学校で描いた絵を読み解き、虐殺の実態を考える。
著者は国立歴史民俗博物館や高麗博物館での展示準備を機に、「朝鮮人虐殺絵」の収集を始めた。昨年、著者がインターネット・オークションで競り落とした新史料の絵巻物も紹介されている。
これらの絵は何を語っているのか。朝鮮人かどうかを尋問される人びと、大勢に殺される朝鮮人。自警団だけでなく、警察・軍の姿も描かれている。さながら「実況中継」のようだと著者はいう。虐殺が衆人環視のもと官民一体となって行われたことを、著者は絵から読み取る。
来年、震災100年の節目を迎える。朝鮮人虐殺の歴史を次世代にいかに継承すべきか。本書を手がかりに改めて考えたい。