谷津矢車が薦める文庫この新刊!
- 『はらぺこ 〈美味〉時代小説傑作選』 朝井まかてほか著 細谷正充編 PHP文芸文庫 924円
- 『傑作! 文豪たちの「徳川家康」短編小説』 芥川龍之介ほか著 宝島社文庫 770円
- 『ifの世界線 改変歴史SFアンソロジー』 石川宗生ほか著 講談社タイガ 759円
新しい作家との出会いに最適で、選者の意図や選出テーマによる楽しみもあるアンソロジーは、もちろん歴史時代小説の分野においても数多く刊行されている。というわけで今回はアンソロジーをご紹介。
女性作家の傑作短編時代小説を集めた(1)は、名前の通り「ごはん」を選書テーマに据えた一冊。バラエティー豊かで華やかなアンソロジーとなっているのは、「ごはん」をモチーフの一つとしながらも、作家一人一人がそれぞれの得手や作家性を駆使し、その作家ならではの味を作品内で提示しているからである。そして、そうした作家の業前(わざまえ)を嗅ぎ分けて配列する選者のセンスも楽しみどころである。
2023年NHK大河ドラマ「どうする家康」を睨(にら)んだ企画であろう(2)は、歴史時代小説の巨星が描いた徳川家康を楽しむことができる一冊。ドキュメント的な視点で描かれた歴史小説から、史実の枠を自由に飛び出して描かれる伝奇歴史小説まで取り揃(そろ)えており、小説分野における徳川家康のイメージの変化をうかがうことができる一冊でもある。大河ドラマの予習にも。
気鋭のSF作家たちによるアンソロジーである(3)は、歴史改変をモチーフに編まれた一冊。1965年にSNSが存在する世界線で起こった炎上事件から、死と再生が繰り返されるジャンヌ・ダルクといった尖(とが)った作品が本書を彩る。逆説的だが、「もしも」の歴史が描かれることによって、本当の歴史を批評している面もあり、SF好きはもちろん、歴史好き上級者にもお薦め。=朝日新聞2022年11月19日掲載