1. HOME
  2. コラム
  3. 文庫この新刊!
  4. 各作家ならではの味を提示する「はらぺこ 〈美味〉時代小説傑作選」 谷津矢車が薦める新刊文庫アンソロジー3点

各作家ならではの味を提示する「はらぺこ 〈美味〉時代小説傑作選」 谷津矢車が薦める新刊文庫アンソロジー3点

谷津矢車が薦める文庫この新刊!

  1. 『はらぺこ 〈美味〉時代小説傑作選』 朝井まかてほか著 細谷正充編 PHP文芸文庫 924円
  2. 『傑作! 文豪たちの「徳川家康」短編小説』 芥川龍之介ほか著 宝島社文庫 770円
  3. 『ifの世界線 改変歴史SFアンソロジー』 石川宗生ほか著 講談社タイガ 759円

 新しい作家との出会いに最適で、選者の意図や選出テーマによる楽しみもあるアンソロジーは、もちろん歴史時代小説の分野においても数多く刊行されている。というわけで今回はアンソロジーをご紹介。

 女性作家の傑作短編時代小説を集めた(1)は、名前の通り「ごはん」を選書テーマに据えた一冊。バラエティー豊かで華やかなアンソロジーとなっているのは、「ごはん」をモチーフの一つとしながらも、作家一人一人がそれぞれの得手や作家性を駆使し、その作家ならではの味を作品内で提示しているからである。そして、そうした作家の業前(わざまえ)を嗅ぎ分けて配列する選者のセンスも楽しみどころである。

 2023年NHK大河ドラマ「どうする家康」を睨(にら)んだ企画であろう(2)は、歴史時代小説の巨星が描いた徳川家康を楽しむことができる一冊。ドキュメント的な視点で描かれた歴史小説から、史実の枠を自由に飛び出して描かれる伝奇歴史小説まで取り揃(そろ)えており、小説分野における徳川家康のイメージの変化をうかがうことができる一冊でもある。大河ドラマの予習にも。

 気鋭のSF作家たちによるアンソロジーである(3)は、歴史改変をモチーフに編まれた一冊。1965年にSNSが存在する世界線で起こった炎上事件から、死と再生が繰り返されるジャンヌ・ダルクといった尖(とが)った作品が本書を彩る。逆説的だが、「もしも」の歴史が描かれることによって、本当の歴史を批評している面もあり、SF好きはもちろん、歴史好き上級者にもお薦め。=朝日新聞2022年11月19日掲載