丸善丸の内本店児童書担当 兼森理恵さんのオススメ
「わたしはスペクトラム」(小学館) 10歳の女の子タリーは、どうやら人と違う。「ふつう」になりたいけどうまくいかない。時々彼女の中にやってくる大きな嵐は、何もかもめちゃくちゃにしてしまう。その原因が自閉スペクトラム症だと診断され、自分らしさを考えていく。著者は主人公と同じ自閉スペクトラム症の女の子。自分に誇りを持てるまでがリアルな言葉で綴(つづ)られている。自分の最大の理解者になれた時、もっと自分が愛(いと)おしくなる=小学校高学年から(リビー・スコット、レベッカ・ウエストコット著、梅津かおり訳、1650円)
「ひとつのねがい」(理論社) 一生に一度でいいから星のように明るく輝いてみたいと、町はずれの年をとったがい灯は願う。叶(かな)うかわからなくても、その燃えるような思いを手放さず持ち続けることで、きっと人生は輝く。限りある一生をどのように生き切るのかが重要なのだ=小学校低学年から(はまだひろすけ作、しまだ・しほ絵、1430円)
ちいさいおうち書店店長 越高一夫さんのオススメ
「星ぼしでめぐるギリシア神話」(岩波書店) 何千年もの時をこえて、人々に語りつがれてきたギリシア神話。それは、神話の登場人物たちの姿を星ぼしになぞらえて星図に描くことで星座物語としても広く親しまれてきました。科学技術が進歩した現代だからこそ、冬の夜空に輝くオリオン座を見て、海神ポセイドンの息子であるオリオンの物語に思いを巡らすことが、想像力を育んでくれるでしょう=小学5年生から(百々佑利子著、花松あゆみ絵、924円)
「黒ねこのおきゃくさま」(福音館書店) 冬の嵐の夜、雨でびしょぬれのみすぼらしい黒ねこがおじいさんのところにやってきました。ひとりぐらしのおじいさんのところには食べるものもわずかしかありませんでしたが、黒ねこにミルクを飲ませ肉を食べさせてやりました。すると、次の朝ふしぎなことがおこります。寒い季節に心があたたかくなるおはなし=5歳から(ルース・エインズワース作、荒このみ訳、山内ふじ江絵、1320円)
絵本評論家・作家 広松由希子さんのオススメ
「よるのあいだに… みんなをささえる はたらく人たち」(BL出版) 私がパジャマに着替えるころ、ママはコートを羽織って出かける。みんなが眠る夜の間に、たいせつな仕事をする人たちがいる。人の帰った後のビル掃除、お店の仕入れや仕込み、線路工事をする人、医者や看護師、赤ちゃんを迎える助産師さん……私のママは? 人種も職業もさまざまな人たちが、つながり支え合って働いている。夜の長い季節に思いを巡らせて=5歳から(ポリー・フェイバー文、ハリエット・ホブデイ絵、中井はるの訳、1760円)
「ゆき」(ほるぷ出版) 最初はひとひら。「かぜに まう」「もりは おちつかない」「しずかに かさなる」。大きな文字の、短い詩的なことばが、絵といっしょに心に降り積もります。白に甘やかな色をさし、北海道生まれの作者が描く、冷たくてやさしい雪。自然の厳しさも、子どもたちのよろこびもふくんだ、豊かな雪の表情が見られます=3歳から(きくちちき作、1650円)
翻訳家 さくまゆみこさんのオススメ
「ぼくたちはまだ出逢(であ)っていない」(ポプラ社) 英国人の父と日本人の母をもつ陸は学校で暴力的ないじめにあっている。母の再婚相手と暮らすことになった美雨は居場所を探して町をさまよう。樹(いつき)は生まれたとき穴があいていた腸の不調に今でも怯(おび)えている。不安を抱えたこの三人の中学生が、割れた瀬戸物を修復する金継ぎを通して触れ合い、時間をかけて美しい物を作り出す伝統工芸を知ることで新たな視野を獲得していく=中学生から(八束澄子作、1540円)
「おやすみなさいフランシス」(福音館書店) アナグマの子どもフランシスは、もう寝る時間と言われてベッドに入ってもちっとも眠くない。部屋の隅に何かいる? 天井のひびから何か出てくる? 窓の外で音がする? いちいち心配になって言いにいく娘に両親がていねいに対応してくれるのがいい。緑とグレーだけで描かれた、時代を超えるおやすみなさいの絵本=幼児から(ラッセル・ホーバン文、ガース・ウィリアムズ絵、まつおかきょうこ訳、1210円)=朝日新聞2022年11月26日掲載