- 英国クリスマス幽霊譚傑作集
- 丹吉
- ゴジラS.P〈シンギュラポイント〉
年末年始は我が家に籠(こも)り、炬燵(こたつ)で、おばけ本三昧(ざんまい)……そんな貴方(あなた)に相応(ふさわ)しい三冊をお届けしよう。
まずは『英国クリスマス幽霊譚(たん)傑作集』。英国では雪の夜、家族が肩を寄せ合い、暖かい暖炉の炎を囲んで、怪談話に興じるという古き良き伝統がある。
文豪ディケンズが、幼少期からのクリスマス・グッズにまつわる不穏な思い出の数々を綴(つづ)った巻頭の「クリスマス・ツリー」は、小説風のエッセーだが、悠揚迫らぬ語り口と、さりげなく漂う凄(すご)みは、さすがに大家(たいか)の貫禄である。
そのディケンズは、自身が編集する文芸誌のクリスマス号に、決まって迫真の幽霊物語を起用しては評判となっていた。本書にも、それらの幾つかが抜かりなく収められている。幽霊たちの大英帝国――その伝統と魅惑を存分に堪能できる好アンソロジーである。
血も凍る幽霊譚の次は、珍無類な妖怪譚を。怪談実話の世界で安定した活躍ぶりの松村進吉が放つ初の長篇(へん)『丹吉』は、勇猛果敢だがいささかお下品な点が「玉」に瑕(きず)の化け狸(だぬき)・丹吉が、弁天様の神使候補となって、弱きものたちに味方(とセクハラ若干を)する物語。著者の故郷でもある阿波徳島のおおらかな風土と、時に辛辣(しんらつ)な現代風俗とが、良い味を出している。
人も獣も妖怪変化も、果ては神々までもが、ゆるやかに混然一体となって、生きとし生けるものの讃歌(さんか)を歌いあげる……おや、この融通無碍(むげ)にして滑稽味も満点な境地、どこかで過去に触れたことが……と思ったら、名作「貝の穴に河童(かっぱ)の居る事」を始めとする泉鏡花の妖怪世界だった。ただし……ここまで臆面もなく下品じゃないけどな、鏡花先生の世界は!
幽霊、妖怪ときたら、次は当然(?)我らが怪獣王の世界だ!
芥川賞作家・円城塔の長篇『ゴジラS.P〈シンギュラポイント〉』は、昨年アニメ番組としてテレビ放送され、一部で話題を呼んだ同名作品を、構成・脚本担当の円城自身が、新たな視点を交えて小説化したもの。アニメ版では触れられなかった(触れようがなかったというべきか……あの尺では)複雑な背景などにも、あれこれ筆が及んでいて、思わず「そうか、あの場面の描写は、そういうことだったのか!」と膝(ひざ)を打つ局面が、いろいろとあった。
神秘の霧の彼方(かなた)に、うっそりと姿を見え隠れさせるゴジラ以上に今回、印象的な活躍を示すのがラドンの群れで、数ある恐竜類の中でもとりわけ翼竜好きな私など、盛大に拍手喝采を送ったものだ。
そんな翼竜マニア(要するに、東宝映画「ゴジラVSメカゴジラ」に登場する、高嶋政宏が演じたキャラクターみたいなもんですな)も思わず感涙な名シーンが、今回の小説版にも多々、含まれていることを付言しておこう。=朝日新聞2022年12月28日掲載