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中村倫也さん「蓑唄」インタビュー 「人生たくさん優しくしてもらったから、今度は自分が種をまく番」

中村倫也さん=篠塚ようこ撮影

前作から続けてきた10年の成果

――前作『童詩』から続く本企画の見どころの一つが、毎回編集さんから提示されたお題で中村さんがその役になって撮影した「作品」とも言える写真の数々です。「墜落した男」や「逃げる男ともう一人の誰か」、「里帰り」といった細かな人物設定やシチュエーションのお題を受けて、まず中村さんが考えるのはどんなことでしょうか?

 その設定の人物が、この衣装でこの空間にいるならどういうことなのかな、ということを考えます。そこから逆算して「こういうものが撮りたいのかな」となんとなく思いながらカメラの前に立っていましたかね。あとは、机の上にあったものやその場の居心地、見える景色といったものから、なんとなくおぼろげな輪郭を作っていくことが僕のやっていることでした。

――そのおぼろげな輪郭のまま撮影に入っていくのですか?

 最初に割ときっちり構想を決めるパターンと、おぼろげでいた方が良さそうなパターンがあるのですが、この企画は7割方おぼろげで、あまり決めつけずにやった方が面白いだろうなと思ったので、僕はおぼろげなまま撮影が終わっている感じです。

スタイリスト:戸倉祥仁(holy.)、ヘアメイク:松田 陵(Y's C) 衣装:カーディガン ¥38,500、シャツ¥60,500(いずれもmeagratia)、パンツ ¥36,300(RYU、全てTEENY RANCH)、その他スタイリスト私物、問い合わせ先:TEENY RANCH(ティーニー ランチ、03-6812-9341)

――中村さんが撮影でアプローチしたり、写真の魅せ方で何か意識されたりしたことは?

 僕が考えるのは残りの3割ですね。7割はカメラすら気にしないようにして、動画のつもりでやっていました。きっとそれをカメラマンさんが勝手に切り取るだろうって思っているので、ただその場に適当にいます。世界観という意味では、カメラを意識して「これをやろう」と思っていたら、多分そうは見えないと思うんです。そこが前作から続けてきたこの10年の成果なんだろうなと思います。

タバコのカットは、素の自分かも?

――『童詩』を見返してみると、タバコをくわえたカットが多いなと感じたのですが、何か意図のようなものがあるのでしょうか。

 担当編集さんとうちのマネージャーが、ひげとタバコ好きなんですよ。でも『童詩』では想像していたほど反響がなかったらしくて、ショックを受けていました(笑)。それに凝りず、今作でもタバコのカットは割と撮りましたね。

――どんな設定やシチュエーションでも顔つきがガラリと変わって、どれも別人に見えるのがすごいなと思いましたが、タバコをくわえた表情からは、どこか素の「中村倫也」さんが見えるような気がしました。本書内のインタビューでも、「俺さ、タバコを吸いながら色々なことを考えるんだけど」と仰っていましたが、中村さんは普段の一服中、どんなことを考えているのですか?

 いろいろなことを考えますよ。今朝はサッカーのワールドカップ準決勝・モロッコ対フランスの試合の戦術を整理しながら、「誰が鍵になってどこはこうで……」と考えながらタバコ吸っていました。そんな風に何かを考えながら吸う時もあれば、何にも考えないために吸う時もあります。

 さっき「素が見えた気がする」と仰っていましたけど、そういう所作って作ろうとしなきゃ変えられないものじゃないですか。特に「タバコを吸う」って生活が如実に出る所作だと思うから、僕は「この役だからいつもと違う吸い方をしよう」と思っていないので、そういうこともあるかもしれないですね。

――タバコを吸うのが印象的な役を演じるときは、吸い方も変えられるのでしょうか。

 例えば、ドラマ「初めて恋をした日に読む話」と「凪のお暇」は、確か放送期間が半年くらいしか空いていない作品だったんですけど、吸い方が違います。見てもらったら分かると思うので、お時間のある時にでもチェックしてみてください。

――今回の特別企画として、2021年に公演した舞台「狐晴明九尾狩」大千穐楽後のインタビューが掲載されています。舞台取材の場合、お稽古前か最中にインタビューを行うことが多いので、全公演を完走した後に演者さんがどう思っていたのか知ることができたのは新鮮でした。

 僕は作品を観た方それぞれに判断して解釈してもらいたいので、「本当はこうだった」とか「実は中ではこんなことをしていました」といった、自分が感じていることや考えていることはあまり言わないんです。僕からあれこれ話してしまうと、それが答えだと思って観に来てくれる真面目な方が多いし、そういう前情報を知らずに舞台を観に行きたいっていう人も絶対いるはずなので、公演中でも役の写真を自分のSNSにあげることもあまりしません。でも、公演が終わった後に振り返ってじっくり話す機会はあまりないので、そう言ってもらえてやった甲斐がありましたね(と、編集さんに目配せ)。

実ったら自分が種をまく。それが地球のサイクル

――前作のあとがきに、「本を手に取ってページをめくっていた時、ふと、“おれ、今なら死んでもいいなぁ”と思った」と書かれています。今作ではどんな感覚を抱かれましたか?

 『童詩』は、自分の何かが作品として残ることが初めてで、そこを目指してやってきたことでもあったし、自分のために色々な人が動いて準備してくれたものが形になるっていう感慨深さが相まって、一瞬そう思ったんだと思います。

 今回は自分の感慨深さというよりも「見てくれた人がどんなところに意義を見出す本になるかな」ということを考えながらやっていた気がします。例えば写真を面白がって見てくれたらいいなと思うし、インタビューで自分が話したことも、当時やっている作品のことを話しているだけではなく、どこかの誰かの人生の一瞬にリンクしたらいいなという言葉を意識的に残しているはずなので、そういうものも含めて楽しんでもらえたらうれしいです。値段以上の価値がある1冊になったらいいなという願いの方が強いですね。

――今回のタイトル『蓑唄』の「蓑」は、葉っぱや枝でさなぎを作るミノムシから着想を得たそうですね。

 これは本誌でも話していないと思うんですけど、実は『童詩』の表紙で着ている衣装から、このタイトル案が出発していたんです。「表紙でどんな服が着たい?」と聞かれて、これまでいろいろな服や設定でやってきたから「つぎはぎで、いろんな色を縫い合わせた和服がいい」というオーダーをしました。それに、僕の前にいろいろな画用紙を切って置いておいたら、勝手に蓑を作るミノムシみたいだなと思って。その時から「いつか2冊目が出せるならタイトルは『蓑唄』かな」といったことは考えていました。そのまま寝かせておいて、いざ2冊目が出るとなった時に色々考えたんですけど、「蓑唄」以外にしっくりくるものも付随する理由が話せるのもほかにないなと思い、このタイトルに決めました。

――前作でまいた種が、4年半で育って形になったんですね。今作のあとがきでは「年を重ねるごとにより優しくより逞しく~」と書かれています。ここ最近のインタビューでも、中村さんはよく「優しくなりたい」と仰っていますが、そう思うようになった理由が気になっています。

 モテたいからじゃないですか。「優しい人がモテる」って女性誌に書いてありましたよ(笑)。

――「優しさ」にも色々ありますが、中村さんが思う「優しさ」とは?

 それもいっぱいあるんじゃないかな。さっき「まいた種が~」と言ったじゃないですか。その例えがさっき僕の頭の中にも思いついて、「何だっけ?」って考えていたんですけど、今思い出しました。自分のここまでの人生を振り返った時に、たくさんの人が僕に優しくしてくれたり、良くしてくれたりして、いろいろな種がまかれていたと思うんですよね。それが僕の中で育って、花が咲いたのか蓑がついたのかは分からないけど、実ったら今度は自分が種をまく番なんです。それが地球のサイクルというか、自分だけで収穫してそれで飯食っていたら世話ないなって。

 それに、自分の仕事も生活もある程度コントロールできるような経験値もついてきたから、今度はそれをどうやって外に出せるんだろうって考えるんです。あとは単純に、性別や色恋問わず優しい人ってすてきじゃないですか。その3つが優しくなりたい主な理由ですかね。

――ご自身が「優しい気持ち」になるのはどんな時ですか。

 生まれたての子ネコや、ツバメの巣を見つけた時。怒られながら一生懸命器具を運んでいる入りたての照明部の人とか、いろんなタイミングがありますよ。でも優しくできない時もあって、家に帰ってから「なんかうまくできなかったな」とか「もうちょい分かりやすく親切にすればかったな」と思うことがよくあるんです。そういうことをなくしたいなと思うけど、それがなくなったら、僕じゃなくなっちゃうかもしれないですけどね。

【好書好日の記事から】

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