原作からヒントをもらうつもりで
――撮影前に朝井リョウさんの原作は読みましたか?
はい。映画のお話をいただいて、シナリオが来る前に読みました。連作短編集という形で、エピソード同士の絶妙な絡み方が面白かったのと、登場人物たちが卒業してしまうところではなく、その直前、それぞれが踏みとどまっている時間を描いているのが印象的でした。タイトルもパッと目を惹きましたね。
――原作のある作品に出演するときは、原作は読みますか?
読みますね。作品にもよりますが、原作にすごくファンがいて、みんなの中で共通のイメージとしてそのキャラクターがあったりすると、ある程度そこに近づけたいと思います。そうじゃないもの、例えば漫画は姿形がありますけど、文章だけのものだと具体的なビジュアルはないので、想像しながらも、どう再構築するかを大事に演じています。原作からヒントをもらうぐらいのつもりで。あとは、原作者が大切にしているであろうことを汲み取りながら、でも、基本すごく寄せようとはしないですね。
一発勝負だった答辞の場面
――本作の原作は卒業式の1日を舞台にしたものですが、映画は卒業式の前日と当日の2日間を描いたもの。印象は変わりましたか?
映画も4人それぞれの話で進んでいくので、短編のようではありますが、ひとつの映画としてうまくまとめられているなと思いました。結末もオリジナルですし、原作とはかなり書き換えられているので、脚本に忠実に、中川駿監督が思う物語を大切にしようと思いました。
――今回演じた「まなみ」という役柄は複雑な役どころでしたが、難しくありませんでしたか?
そうですね。自分には経験がない設定だったので、監督の実体験を共有させてもらって、そこを大きなヒントにしていました。まなみは、監督自身を投影している部分もあると思うので、監督の想いを一番大切にしました。
――最初に調理室に入るシーンがとても印象に残りました。
あのシーンは、監督と細かく話し合いながら撮影しました。きっとまなみは、あまりそこには近付いていなかったと思うし、暗くなりすぎず、明るくなりすぎず、どうやって入っていくか。私自身、とても印象に残っているシーンです。
――答辞を読むシーンも惹き込まれました。
自分の気持ちが溢れるときとか、感情がばーっと出るときって、声を出すのがきっかけになるなと思っていて。答辞を読むところは、作品の中でも重要なシーンなので、最初の1回が大切だと思っていました。監督からは「手紙を読むようなイメージで」と伝えられて、テストとか段取りをせずに、その場でちゃんと文面の意味を実感しながら読みました。
今しかない、まっすぐな爽やかさ
――作品では、部室、調理室、図書室など4人それぞれの思い出が詰まった場所が出てきます。ご自身にも思い出の場所はありますか?
高校3年間、ダンス部に所属していたので、練習していた場所は思い出の場所ですね。4階立ての校舎の4階にある広場みたいなところで、すごく陽が入る場所でした。道具がいろいろ置いてあった棚とか、ほこりが舞ってたり、掃除をしたりした思い出もあります。懐かしいですね。
――卒業式するのは寂しかったですか?
小学校、中学校の卒業式は友だちと離れなくちゃいけないのが寂しくて、卒業したくないって思っていました。高校はそれぞれ進路が見えていたし、寂しかったけど、自分も含めてみんなも次に進むワクワクもあって、楽しみな部分が大きかったですね。みんなで盛大にお別れした感じです。
――作品の登場人物の中で、ご自身に一番近いのは誰ですか?
文化祭で出し物をするという意味では、小宮山莉渚ちゃんが演じた軽音部の部長が一番近いといえば近いですかね。舞台袖でドキドキしている感じとか、よくわかります。でも、4人それぞれの要素もありますね。
今回、みんなパートが分かれていて、ひとつの物語をみんなで作るというよりは、4人それぞれ、自分のストーリーを作っていった感じでした。他の人の撮影で見られないところもたくさんありましたが、それぞれが別の場所で作品に向き合っていて、とてもうれしかったです。みんなすごく真っ直ぐに取り組んでいて、それがすごく爽やかで。そんな、今しかない、みんなの爽やかさみたいなものを感じてもらえるとうれしいですね。
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