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自然地形を活かした都市形成を読み解く「地形で見る江戸・東京発展史」 田中大喜が選ぶ新書2点 

『地形で見る江戸・東京発展史』

 東京の地形は東側の下町低地と西側の武蔵野台地とに大きく分けられ、特に後者は起伏に富んだ複雑な地形をしている。鈴木浩三『地形で見る江戸・東京発展史』(ちくま新書・1100円)は、江戸・東京の都市形成がこうした自然地形を活(い)かしてなされたことを絵図や地形図から読み解く。
 圧巻は江戸と東京市の上水網に関わる絵図と地形図とを突き合わせ、その具体像を明示した点である。上水供給の目的を最大限達成できるように、低地の市中においてさえ微妙な土地の高低を利用し尽くす様は、地形に逆らわない江戸・東京の都市形成のあり方を如実に示している。
★鈴木浩三著 ちくま新書・1100円

『大塩平八郎の乱』

 江戸に並ぶ大都市といえば大坂だろう。藪田貫(ゆたか)『大塩平八郎の乱』(中公新書・968円)は、その大坂で江戸時代後期に起きた乱の実態について、先行研究と関係史料を丹念に検討しながら明らかにする。
 大塩の乱は、大坂の町奉行所や豪商だけでなく、大坂城代を務めた現職老中も指弾し、江戸の中央政治の改善をも求めたものだった。そしてそれを支えたのが、同僚の与力・同心の子弟、近隣諸藩の武家、近在の豪農を構成員とする私塾洗心洞の門人や馴染(なじ)みの書籍商であり、乱の内実は「洗心洞の乱」だった。乱の射程と裾野の広さに驚かされる。
★藪田貫著 中公新書・968円=朝日新聞2023年1月14日