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見えない壁を超えていくために 谷原章介さんが共感した3人の3冊

谷原章介さん=松嶋愛撮影

1. 仕事をするとは心を磨き、人格を練ること 稲盛和夫「生き方」(2022年9月30日公開)

『生き方』稲盛和夫(著)

 日本を代表する経営者であった稲盛和夫さんが昨年8月に死去しました。谷原店長はJALの経営再建中にたまたま稲盛さんと同じ飛行機に乗り合わせたことがありました。特別なサービスは断って、「シウマイ弁当」を頰張る飾らぬ人間性に、しみじみ感銘を受けたそうです。「単なるビジネス書、自己啓発本」としてではなく、家族を持つ社会人としてどう生きるべきか、次の世代を担う子らにどんな価値観を伝えるべきかを、稲盛さんのことばから読み解いています。

 50代の大台に乗った僕が、この本を読み、肩の余計な力が抜けた言葉があります。それは、「できていないこと」に落胆するのではなく、「できるために努力をしている自分」で十分なのだ、というメッセージです。

 できて、初めて成功ではない。そこに到達するために自分を磨き続けることが目的。この本のなかには、そんなメッセージが何度も登場します。僕自身、至らない点や、「またこんなことを言っちゃった」という反省点は、日々山のようにあります。でも、「努力をしている自分」で十分。少しでも磨き続けていけばいいや。僕の気持ちをラクにさせてくれました。

2. 逆境を乗り越えていく心を整える りんたろー。「自分を大切にする練習」(2022年11月25日公開)

『自分を大切にする練習』りんたろー。(著)

 「男が美容なんて」という時代を生きてきたという谷原店長が、お笑い芸人・EXITのりんたろー。さんが書いた『自分を大切にする練習』を取り上げました。美容やダイエットなどの「ハウツー本」としてではなく、自分をメンテナンスすることで、逆境を乗り越えていく心を整えるための方法として読んでいます。谷原店長の「自分を大切にする」方法は、「後悔しないこと」。悶々と考え続けず、切り替え、走り続けることで、自分の中に耐性が出来てきたそうです。

 りんたろー。さん自身は、一度挫折し、「次の成功」のために膝を曲げ、力をためこむ日々を送ってきました。挫折したまま終わってしまう人も多いなか、もう一度羽ばたくためのエネルギーを彼は蓄えていたのです。

 「ああ、そうか!」と気づきました。だからこそ、彼が「自分を大切にする練習」を書いたのかと。若くして人生の光と影のコントラストを知る彼だからこそ、読者に対し「少しでも自分らしく、健やかな毎日を暮らせますように」と呼びかけたいのでしょう。まっすぐなメッセージがそのまま伝わってきます。葛藤を乗り越え、「自分で自分のメンテナンスをする」ことが、いかに「自分は価値のある存在だ」と思えるようになるうえで大切なのか。その思考の変遷には、誰よりも強い説得力があります。

3. 演技に正解はない、壁を超えていく思考に共感 山﨑努「『俳優』の肩ごしに」(2022年12月30日公開)

『「俳優」の肩ごしに』山﨑努(著)

 谷原店長が畏敬の念を持つ先輩俳優のひとりが山﨑努さんです。山﨑さんがどんな思いで演技や作品と向き合っているのかから、演技の壁を超えていくためのヒントを読み取ります。谷原店長は、演技はストーリーを喋って観客に伝えているようでいて、じつはそうでなく、台詞と台詞の「行間」を伝えているものだと思うと話します。

 「僕は演技している」。そう山﨑さんが初めて悟った、たいへん重要な瞬間です。8歳の少年が複雑な自我を持っておられることにまず驚かされますが、あるいは、子どもなら誰しも、多少なりとも備わっている自我であるのかも知れません。自分の感情なのか、それとも他者を意識して表層で行っていることなのか、それが曖昧なまままざり合ってただひたすら駆けてゆく。

 大人だって同じです。いかなる人も、どこかお芝居をしているのだと僕は思います。だからこそ、見る人によって、その人の「人物像」というものが微妙にずれていく。その場所に添った自分、相手に添った自分。いろんなペルソナを付け替えながら暮らしていると思います。「演じること」を生業とする者の端くれとしては、染みてくる言葉が随所にあります。山﨑さんの「役者としてのあり方」に、一つひとつ、深い感銘を受けます。