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神話を解体する『「おふくろの味」幻想』など藤田結子が選ぶ新書2点 

『「おふくろの味」幻想 誰が郷愁の味をつくったのか』

 日本では昔から「お母さんがごはんをつくってきた」。そんな「おふくろの味」という概念が意外にも新しいものであることを、湯澤規子『「おふくろの味」幻想 誰が郷愁の味をつくったのか』(光文社新書・1034円)は丁寧に検証する。歴史地理学を専門とする著者は、人々が都市へ移り住み、地方の料理が「郷土料理」として再編され、都市の食堂が擬似的な故郷となった高度成長期に着目する。料理本のタイトルとしては1960年代にはじめて「おふくろの味」と冠され、わずか40年の間に広まり消えていった。肉じゃががその代表格という世界観を創ったのは80年代のメディアだという。「おふくろの味」神話を鮮やかに解体するお薦めの良書だ。
★湯澤規子著 光文社新書・1034円

『ゆるい職場 若者の不安の知られざる理由』

 「早く成長したい」「会社が楽で不安」と大企業を辞めベンチャーや外資系に転職する若者が後を絶たない。その理由を分析したのが、古屋星斗『ゆるい職場 若者の不安の知られざる理由』(中公新書ラクレ・990円)。新卒社員の労働時間は減少、職場環境も改善。にもかかわらず、「ゆるい職場にいると自分は他の会社で通用しなくなる」と若者たちは不安に思う。ここ数年は学生時代の社会経験が増え新卒社員が「大人化」したことも離職率を高めたという。現代の若者の不安を理解するうえで役立つ一冊。
★古屋星斗著 中公新書ラクレ・990円=朝日新聞2023年1月28日