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谷川浩司さん「藤井聡太はどこまで強くなるのか 名人への道」インタビュー 「指さなかった手」の蓄積

谷川浩司さん

 21歳で名人の座に就いてから40年。今年、その最年少記録が破られるかもしれない。藤井聡太竜王が、A級順位戦で名人への挑戦権獲得に近づいているからだ。「昨年までは複雑な思いがあったが、20歳で将棋界を背負っている藤井さんに破られるなら、光栄なことではないかと思うようになった」
 名人という地位には400年以上の歴史がある。今も「将棋界の顔」とも言うべき重みを持つが、初めて名人を獲得した時はナンバーワンになったとは思えなかった。「名人になって、ようやくベスト5に入ったぐらい。(竜王戦の前身の)十段戦や王将戦のリーグ戦では陥落していた」。1997年に5期目の名人獲得で永世名人の資格を得たが、その後は3勝2敗で七番勝負を制するまで「あと1勝」としてからの連敗を3回も経験。「一番多く出たタイトル戦だが、悔しい思いをした棋戦でもある」

 前著『藤井聡太論 将棋の未来』(講談社+α新書)を出したのは2021年5月。その後、藤井竜王はタイトルを二つから五つに増やし、さらなる進化を遂げた。特に持ち時間が長い2日制のタイトル戦を数多く経験したことで、強くなったと分析する。「藤井さんは、結論が出ない序盤の局面でも1時間考えられる。実際に指した手は他の棋士にもわかるが、指さなかった手は藤井さんの頭の中だけに残る。その蓄積が大きい」
 昨年60歳になったのを機に、永世称号の十七世名人を名乗るようになった。一方、順位戦のクラスが下がった影響でトップ棋士との対戦は減った。だが、逆にそうした相手との勝負がモチベーションになる。「トップ棋士との対局に、どのような作戦で臨むかを考えるのが楽しい。今は、AI(人工知能)によって将棋がガラッと変わった面白い時代。現役棋士として真剣に取り組みたい」(文・写真 村瀬信也)=朝日新聞2023年2月18日掲載