ニュートンは大著『プリンキピア』の中で「壮麗なる太陽系は神の深慮と支配から生まれた」と書いている。力学は創造主の意図を読み解く営みとして構築された。また、アインシュタインは「神はサイコロ遊びをしない」(量子力学の確率的解釈への反論)という有名な台詞(せりふ)をはじめ、神を介して科学を論ずる場面が多かった。彼らのこうした思想は近代科学が絶対者を神とするキリスト教文化圏で発祥した歴史を物語っている。
一方、神の概念が異質な宗教観をもつ大方の日本人にとって、科学のルーツの基盤に神が鎮座する自然観はなかなかわかりにくい。そうした彼我の違いに注目したとき、本書はそれを埋める格好の解説書となっている。
というのも、本書は近代科学の草創期から現代まで、科学界の巨人たちが神をどのように位置づけながら、自然の謎に挑んできたかをたどったユニークな科学史の書となっているからである。加えてもうひとつ特筆すべき点は、著者が素粒子物理学者であると同時にカトリックの聖職者である、つまり科学と神の両方の世界に通じているというユニークな経歴を有していることである。本書のテーマにこれ以上の適任者はいない。
そこで、読者は歴史上の偉人の話もさることながら、現代科学の第一線に立つ著者自身が書名どおり神を信じているのか否か、生の声を聞きたくなる。これに対し、著者は先人たちの思想をたどった延長線上に、明快かつ簡潔に自身が下した「神」の定義を述べている(ネタばれとならぬよう、ここではその内容は伏せておくが)。
ただし、それがストンと胸に落ちるか、はたまたレトリックか概念のすり替えと映るかは、読み手の理解の仕方によって多様であろう。それでもというかそれだけに、誰かを相手に(できれば著者と)このおそらく果てのない問題を論じ合ってみたいと思うような、知的刺激を受ける一冊である。=朝日新聞2023年2月25日掲載
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講談社ブルーバックス・1100円=11刷3万6500部。2018年6月刊。「『科学と神』という根源的なテーマが文系や若年層にも広く関心をもたれている」と担当者。