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BL担当書店員の気になる一冊【2023年1月〜3月の近刊&新刊より】

人を愛するって、こんな気持ち(井上將利)

 ようやく春らしい気候になってきまして、花粉以外はとても過ごしやすい今日この頃です(ほんと花粉以外は。笑)

 そんなほのぼのとした季節にピッタリな作品と出会うことができたので、皆さんにもご紹介したいと思います! 今回は西本ろうさんの「はじめの恋」(幻冬舎コミックス)を選びました。

 恋愛経験皆無な元ヤクザと恋多き大学生という組み合わせに素敵な恋が始まる予感がプンプンしてきますね。元ヤクザの真宮はじめは「ザ・漢(おとこ)!」と言わんばかりのキャラクターで顔も体もとにかく圧が凄いです。長い間極道の世界に身を置いていた彼は情に厚く周りからも慕われていたのですが、仲間よりも愛した人を優先して命を落とした組長の死をきっかけに、全てがどうでもよくなり極道から足を洗ってニートになります。

 「誰かを愛するってどういう気持ちだよ」と真剣に悩むほど彼は恋愛という感情を知らなかったのです。そんな真宮が偶然バスで乗り合わせたのが大学生の香坂翔でした。最初はいちゃつくカップルの1人として登場し、相手にぞっこんな印象だったので、僕的には「魔性な男」キャラかなと思ったのですが、再度登場し真宮と再会した時には一転、地味な大学生になっていてギャップというか引き出しの多いキャラだな~と感じました。そんな香坂君はデリバリーホストに入れ込んでおり、いわゆるお金で買った愛人に貢ぐために自身も体を売って生活しているという、なかなかに壮絶な青年なんです。そんな香坂君を男気あふれる真宮が放っておくわけもなく、彼が体を売る時間を全て買い占めるという荒業によって2人の関係が一気に進み始めます。

「はじめの恋」より ©西本ろう/幻冬舎コミックス

 また本作の魅力の一つでもありますが、2人の顔面のパワーが強いこと強いこと(笑)。特に香坂君の澄んだ瞳から真っ直ぐに向けられる眼差しからはなかなか目が離せませんでした! そして彼の表情からは内面に秘める確かな力強さが感じられますし、相手の心を見透かしたような芯を突く言葉も。気付けばどんどん香坂君のことが気になってしまうんです……!

 そんな香坂君と関わる恋愛経験ゼロの真宮がカッコつけながらもどぎまぎしている様子も微笑ましいですし、この2人がこれからどんな恋をするのか考えるとそれはそれは楽しみな作品です。

 真宮にとっての「はじめの恋」はどうなるのか、そして香坂君にとっても実は「はじめの恋」なんじゃないかな……?なんて思いにふけながら楽しんで頂ければ幸いです!

アラフォーのときめきに“きゅん”が止まらない!(原周平)

 今年も続々と新刊が登場して2023年のBLも盛り上がりそうです! 今回は中でもアラフォーの恋のきゅんきゅんがたっぷり詰まったこちらの作品を紹介させていただきます。

 マミタさん「40までにしたい10のこと」(リブレ)

 3カ月後に40歳を迎えるサラリーマン、十条雀(とうじょう・すずめ)。10年以上恋人もおらず、今や誕生日も孤独に過ごす彼が、残業中に「40までにしたいことリスト」を作っていると、部下の田中慶司に偶然目撃されたうえに、ゲイであることも見抜かれ、挙句に恋人になってリストの目標を一緒に達成しましょう、と畳み込まれて……。恋愛で枯れていた雀さんの生活は一変していくことになります。

 強引な慶司に流されるままに、たこ焼きパーティー、原宿で食べ歩きデートと着々とやりたいことリストを叶えていく2人。10歳も若い部下の慶司に少しずつ惹かれていく雀さんの心の変化が、彼の表情と相まってこちらにも伝わってきて、語彙力ないですがめちゃくちゃイイんです~! 原宿での不意のキスシーンは恋心を自覚する瞬間、という感じがしてドキドキしました。

「40までにしたい10のこと」より ©マミタ/リブレ

 好きな人ができると、いつもと同じ景色も見え方が変わるって素敵です。まるで初めての恋をした学生のようなトキメキを噛みしめている雀さんにほっこりしちゃいます。恋するのに年齢なんて関係ないですね!

 お話自体は割と王道路線のラブストーリーなのかなと思うのですが、この作品を魅力的にしているのはやっぱりキャラクターです。雀さんはオンでは頼りになる上司って感じなのに、家でのファンシーさのギャップがすごい。ぬいぐるみに「すず子」と名前まで付けて話し相手にしているところ(すず子との会話がまた面白い)とか、普段と違った姿が突き抜けていて、おっさんなのに、場合によってはイタく見えるはずなのに、なぜかカワイイ(笑)。早くも「2023年BLかわいいおじさんランキング(個人による)」1位になりそうな勢いです。慶司も会社ではカモフラージュとして女にモテまくりなキャラを演じていますが、礼儀もしっかりしていて、ちゃんと筋の通った考えを持った男です。メガネを外した時のイケメン具合もさることながら、雀さんをぐいぐい攻めるところもいいですね。段々と敬語を使わなくなっちゃったりして、距離感の詰め方が上手い!と思わざるを得ません(笑)。

 同僚の悪気のない言動をきっかけに現実に引き戻されて、関係が壊れそうになりながらも、一緒に過ごした時間を10のリストが終わっても続けたいという思いをお互い求め合ってくれて良かった~! ラストに掛けては久しぶりに気持ちが昂りました(笑)。

 一冊の中にテンポ良くまとまったストーリーで、とっても読後感の良い作品でした。年の差カップル(年下攻め)の話にあまり触れてこなかった方にもオススメの一冊です!