「人間性の進化的起源」書評 人間は特別? 数理モデル駆使しスリリングな議論
評者: 磯野真穂
/ 朝⽇新聞掲載:2023年03月18日
人間性の進化的起源 なぜヒトだけが複雑な文化を創造できたのか
著者:
出版社:勁草書房
ジャンル:生命科学・生物学
ISBN: 9784326103157
発売⽇: 2023/01/24
サイズ: 22cm/404p
「人間性の進化的起源」 [著]ケヴィン・レイランド
動物にも人間と同じ感情と知性がある。人間を特別視するのは誤りだ。そんな道徳が席巻する中、「人間は特別だ」と言い切る本が現れた。進化生物学者の著者は問う。人間に似た行動・思考を見せる動物は、魚も含めたくさんいる。でもワクチンを開発したり、白鳥の湖を踊ったりするのは人間だけ。それはどうして?
子どもが抱くような素朴な問いに、実験、先行研究、数理モデルを駆使しながら本書は迫っていく。時に精緻(せいち)に、時に大胆に。展開される議論はスリリングそのもの。主義ではなく実証的な検証と推理、導き出される「文化」という回答。科学の力ここにありだ。
ただ進化の頂点に欧米を置いているとしか読めない点は気になった。著者が設定する進化の尺度を使えば確かにそう。しかし欧米は数々の破壊と虐殺の歴史も持つ。そもそもの尺度は適切なのか? 目を開かれつつも、植民地主義を正当化した社会進化論を感じたことも指摘しておきたい。