食卓は「明日に向かって行ける場所」
――最初に原作のコミックスの感想を教えてください。
飯島:『僕らの食卓』のようなジャンルの作品はあまり読んだことがなかったのですが、今回しっかり読んだときに、なんて優しい物語なんだと思いました。例えるなら、心温まるお母さんの味というか、家族の優しさに包まれた感覚がありましたね。
犬飼:原作を読んだときに、僕もほっこり温かい気持ちになりました。漫画を読んでほんわかすることがあんまり今までなかったので、すごく不思議でした。ドラマの台本も、そのほっこりする空気感がそのまま引き継がれている本だったので、それがすごく嬉しくて。撮影は地元の徳島県で行ったんですが、そののんびりとした空気感と、僕たちが動いている画が合わさって、全体的に雰囲気の良さが醸し出されたのではないかなと思いますね。
――家族の話でもあり、恋愛を描いた作品でもありますが、何か工夫されたり、参考にしたりしたものはありますか?
飯島:僕はただただ素直に穣になりきって、その目の前にいる豊がすごく素敵だなと思いながら、撮影に挑んでいました。そのうちに、いろいろな料理を作って、家族のような関係になって……。役を演じる上で、何か特別なことをしたわけでもないし、悩みを感じたこともないですね。
犬飼:ゲームの「たまごっち」のキャラクターに恋をしてしまった女性の話をテレビで見たことがあります。恋愛対象としてキャラクターを見て、2人で公園に行ったり、キスをしたり。僕はそれを見て、「愛だな」と感じたんですね。だから僕の中では、男性同士の恋愛、いわゆる「BL」も含めて、そこまで何かを組み替えなくてはいけないものでもなかった。僕自身、男性同士の恋愛を描いた作品は3作目だったこともあると思いますが、そんなに苦労はしなかったです。
――豊は両親を亡くし、穣も母親を亡くしました。どこかで喪失感を感じている2人が、食卓を囲む幸せを見つける物語でもあります。お二人にとって「家族」とは?「食卓」とは?
飯島:当たり前だけど、当たり前ではない。いつ縁が切れるのか、何があるか分からない世の中じゃないですか。しっかり感謝しながら過ごさないと壊れてしまうので、築いた関係性を僕は大事にしていますね。食事に関してもそう。生きていく上で絶対にとらないといけないもの。日々感謝という気持ちで、家族も食事も捉えています。
犬飼:ゲームに例えるなら、食事は「セーブポイント」みたいな印象ですかね。毎日いろいろなことが起きて、それなりにダメージを食らうじゃないですか。でもポケモンがポケモンセンターに行けば体力が回復するように、その日起きたことを自分の中で整理しながら、明日に向かっていける場所。それが食卓かなと思うんです。
それぞれの「自炊へのこだわり」
――2人は『仮面ライダー』で共演経験があります。そのときに感じた印象と、本作を通して感じた印象の変化はありますか?
飯島:特に大きく変化したことはなかったかなと思いますが、共演は4、5年ぶりだったので、撮影を楽しみにしていました。犬飼さんのやりたいことと、僕のやりたいことの波長は、なんとなく合うなと思いました。
犬飼:僕が初めて会ったとき、彼は黒髪だったんですけど、役づくりのために金髪になっていました(笑)。あと当時は20~21歳ぐらいで、いい意味で大人になりたてというフレッシュさがあったんですけど、今回はもう大人の男性になっていて。時の流れを感じました。
飯島:いやいや、犬飼さんは僕と2歳しか変わらないでしょう(笑)
犬飼:結構フレッシュなままの方もいるんですけど、すごくいい年の取り方をされているなと思いました。
――お互いのお芝居の印象はいかがですか?
犬飼:僕は穣としての居方(いかた)みたいなものを勉強させてもらっていました。
飯島:それは僕もそうです。豊は、感情を表に出すのが難しい役柄ですが、犬飼さんは豊の気持ちを頭の中で整理して、言葉にして、お芝居で表現されていて、さすがだなと思いました。
――役についてお聞きします。それぞれ自分と似ているなと感じる部分はありますか?また、逆に似ていないなと思うところはありますか?
犬飼:僕も自炊をするので、僕と豊は料理をするところが似ているなと思いました。内面的なところはちょっと似てないことが多いかな。豊は遠慮しすぎてしまうけど、僕は遠慮を辞めたので(笑)。
飯島:それを考えると僕は、犬飼さんの真逆かもしれない。僕は人との壁を最初に作ってしまうんですよね。仲良くなるとしても、「本当はこう伝えたいけど、伝えたら傷ついてしまうかな?」といろいろ1人で考えてしまうタイプで、不器用なんです。穣と似ていない部分は、料理をするところ。僕も犬飼さんと一緒で、料理はするので。
――ちなみに、お二人の得意料理は?
犬飼:ライターさんは今、何が食べたいですか? パスタ? 俺、めっちゃ得意ですよ(笑)。
飯島:逆質問のパターン!(笑)。
犬飼:いや、よく作る料理はあるけど、得意料理というとなかなか難しいなと思って。パスタなど、調理が楽なものは頻繁に作りますね。
飯島:僕は味付けが得意です。「これとこれを入れたら、いい味になるな」という感覚が鋭いので、目分量で調味料を入れることができます。
――お二人とも日常的にお料理をしているんですね。ぜひ自炊へのこだわりを教えてください。
飯島:僕は料理をつくる工程が好きで、達成感と充実感に浸りたいタイプなんです。鍋など簡単に調理ができるレシピが多いですが、久石譲さんの音楽を流しながらつくったりしています(笑)。別に人に提供するわけではないので、ただただ自己満足できればいいと思うんです。
犬飼:僕はすごく熱いものが好きなんです。アツアツのものは絶対にアツアツでないと嫌。口の中を火傷するぐらい、もう最高温度まで上げたものをすぐに食べたいんです。それが自炊へのこだわりかもしれないです。
飯島:これでは一緒に食卓を囲めないですね(笑)。
「本は人生を豊かにする教材」
――犬飼さんは徳島県出身で、飯島さんは北海道出身です。「ふるさとの味」が恋しくなるときはありますか?
飯島:それはありますね。僕は北海道の郷土料理で「焼きたらこをあえたこんにゃく」が無性に食べたくなるんですよね。僕らのおじいさん、おばあさん世代がよく作ってくれる料理で、北海道のコンビニにも100円ぐらいで売っているんですけど……つまみにもいいし、ご飯にも合う。帰省すると必ず食べますね。
犬飼:ふるさとの味ではないですけど、僕は疲れたとき、辛いものが食べたくなります。人が食べられないような辛さも、意外と食べられるんですよ。
――撮影中に印象的だったエピソードを教えてください。特に種役の前山くうがくんとはどんなやりとりをされたんですか?
飯島:彼は天真爛漫で、種そのもので、現場の空気をとても良くしてくれましたね。種の兄として見てもらえるように、撮影中は近くにいるように心がけていましたし、「ポケモン」のゲームの話をよくしていました。
犬飼:くうがくんは最初は緊張していたのか、あまり話しかけてくれなかったんですけど、撮影に入ると、それは嘘のように、 元気に話しかけてくれましたよ。印象的なことで言えば、僕は時間があればコンビニに行く人間なんですけど、今回も空き時間にコンビニに行ったら、徳島の地元の友達とばったり会いまして(笑)。それが一番びっくりしましたね。
――お二人は普段、どんな本を好んで読みますか?
飯島:誰かの人生を描いた作品を選ぶことが多いかな。ご健在の方でももうお亡くなりになっている方でも、僕と全く違う人生を歩んだ方々の“総集編”が好きです。本は人生を豊かにしてくれる教材だと思うんです。直接人の話を聞くことも大事だと思うんですけど、活字を通して読むと、改めて身に入る感じがするんですよね。
犬飼:僕は漫画はよく読みますね。人間の内側のドロドロしたものを描いている作品が好きで、少年誌というより青年誌の方が多いかな。周りに漫画が好きな人が何人かいるので、面白い作品や僕が好きそうな作品を適宜教えてくれるんですよ。僕はそれらをチョイスして読めばいいだけなので、すごく楽チンです(笑)。本を読んでいると、リラックスできるし、俳優業にも生きるなと思いますね。演じるキャラクターの幅が広がるというか、演技の引き出しの参考になるなと思います。