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ウルバノヴィチ香苗「まめで四角でやわらかで」 眼福の江戸情緒、五感呼び覚ます

©ウルバノヴィチ香苗/トーチweb

 きんぴら、里芋煮、イワシの梅煮、鰻(うなぎ)の蒲焼(かばや)き、こんにゃく田楽、夜鳴き蕎麦(そば)……。見ているだけでのどが鳴るような料理が次々に登場する。ただし、いわゆるグルメマンガとは違う。そこが主眼ではなく、日々の暮らしの句読点としての食のシーンが、さりげなく(しかし印象的に)描かれるのだ。

 舞台は江戸の長屋。「煮うり」の看板を掲げた今でいう惣菜(そうざい)店の女将(おかみ)とその亭主を中心に、四季折々の行事や風物を情趣豊かにスケッチしていく。夕立の雨粒、濡(ぬ)れた着物、物売りの声、桶(おけ)の水の中で揺れる豆腐、鍋から立ち上る湯気、春の風に交じる梅の香、潮干狩りの砂浜の感触。それらのきめ細かい表現が視覚を通じて五感すべてを呼び覚ます。

 長屋の人たちの暮らしぶりや会話は、それこそ落語のよう。やわらかな線で描かれる江戸の風景には心が和む。自在なコマ割り、構図、カメラワークも眼福だ。迷子になって涙で視界が歪(ゆが)む幼児目線の描写もいい。

 作者は東京出身で、江戸っ子の祖父母から昔の話を聞いて育ったという。おまけ漫画に記された考証取材の様子は誠実そのもの。タイトルは江戸の人々の生き方を表しているらしいが、作者自身にも当てはまりそうだ。 =朝日新聞2023年5月20日掲載