百貨“展”で、バラエティ豊かな絵本の世界を体感!
谷川さんが手がけてきた絵本は、ことばあそび、ナンセンスの楽しみ、生と死や戦争など、コンセプトやテーマだけみても幅広く、バラエティ豊かです。さらに、絵本における視覚表現も絵だけでなく、写真やコラージュなどとさまざま。そんな幅広い谷川さんの絵本の世界を紹介する場として「百貨“展”」という展覧会名にしたといいます。
「今を生きる私たちが、谷川さんが表してきたものを今のことばや表現で楽しむ。そして、今の私たちの気持ちで受け取る構成にしました」とキュレーターの林綾野さん。本展では数ある谷川さんの絵本作品の中から約20作を取り上げ、アートディレクターや映像作家、建築家など多彩なクリエイターがさまざまなアプローチで絵本の世界を表現しています。
展示会場入り口では、ことばの音やリズムの楽しさを思い出させてくれる作品が私たちをお出迎え。アートディレクターの柿木原政広さんによるインスタレーションは、『ことばあそびうた』(絵・瀬川康男)にある詩のリズムを楽しく体感できるものになっています。
木の実やヒツジの爪などを用いたペルーの民族楽器を鳴らして「けん けん ぱ」をしながら、「かっぱ かっぱらった……」と唱えてみると、ことばと一緒に遊んでいるような感覚に。ことばの意味やそこに込められた思いについつい目がいきがちですが、意味にとらわれずに、ことばそのものから生まれる音やリズムをおもしろがってみると、ことばが持つ可能性に気づかされます。
絵本の展覧会というと原画展が真っ先に思い浮かぶものの、本展で原画が並ぶのは7作品のみ。しかも、ただ原画が並ぶわけではありません。クリエイターの手によってさまざまな工夫のもと、展示されます。
なかでも特に目を引いたのは、『おならうた』(絵・飯野和好)の原画が並ぶ「おならドーム」。ドームの天井は低めになっていて、大人が原画を見るにはどうしてもお尻を突き出すように前屈みにならないと見ることができません。そんな体勢で原画を見ていると、聞こえてくるのが「ぶ」「ぼふっ」などのおならの音! デザインチームminnaが「絵本を読んだときの感覚を拡張できるように」と手がけた作品です。「いもくって ぶ」「すかして へ」など絵本に出てきたおならの音を思い出しては、このおならの音はあのシチュエーションかなと想像してしまいます。
本展のための新作「すきのあいうえお」も見どころの一つ。谷川さんの好きなことば「すき」をテーマにした作品で、「あられ」「いるか」……と五十音順に谷川さんの好きなものが並びます。展覧会では、写真家の田附勝さんがそれぞれのことばに応えるように日本各地を巡って撮影したものを映像作品に仕上げて上映。画面いっぱいにことばの頭文字と写真が交互に映し出されます。谷川さんの好きなものを眺めながら、「『あ』はアイスクリーム、『い』は遺跡」など、自分の好きなもので連想ゲームをしてみるのもおすすめです。
本作は写真絵本として夏ごろに出版予定とのこと。絵本を見ながら、親子や友だち同士で谷川さんの好きなものと自分たちが好きなものを比べてみるのもおもしろそうです。
百貨“店”で、ことばを持ち帰る
本展開催中、ミュージアムショップは展覧会名をもじった「絵本★百貨店」に。
「朝のリレー」「生きる」などの谷川さんの詩が活版で印刷されたポストカード(12種、1枚330円)をはじめ、絵本『ともだち』の英訳版『A FRIEND』の詩がプリントされたアクリルキーホルダー(5種、各1,100円)、谷川さんによる詩の一節が20種類ランダムで5つ入ったフォーチュンクッキー(1,080円)、『オサム』『ままです すきです すてきです』『うつくしい!』『おならうた』の詩が印字されたトイレットペーパー(4種、各330円)など、「ことば」で彩られたグッズが多数揃います。
個人的なおすすめは、絵本『おならうた』にちなんだ「おならボタン」(1,100円)。ボタンを押すたびに、「ぷぷ」「ぷすぅ」「ブー」など、いろんなおならの音がランダムに鳴り、子どもたちに大ウケしそうな一品です。
「おならボタン」を目にしたときは、ことばは音としても持ち帰ることができるんだとハッとさせられました。ひと押しすれば何だか楽しくなってきて、何度でも押したくなること請け合いです。
百貨“典”で、谷川俊太郎の絵本づくりを振り返る
本展の図録『谷川俊太郎 絵本★百貨典』は、さながら谷川さんの絵本にまつわる百科事典。1956年に谷川さんが自費出版した『絵本』から、junaidaさんと共に作った最新絵本『ここは おうち』に至るまで、展覧会では紹介しきれなかった絵本を含む全172作が網羅されています。書影や絵本中面のビジュアル、本文をはじめ、絵本刊行当時のインタビューや本書のためのインタビューなども収録されていて、見応えも読み応えもたっぷりの一冊です。
「詩だけ書いてるんじゃつまらない」という気持ちが最初からあったという谷川さん。いろんなジャンルの仕事をするなかで、絵本がいちばん向いていると思ったのだそうです。谷川さんにとって、絵本づくりは詩作とは次元の異なる興奮があったといいます。しかも絵本づくりは絵や写真などのビジュアル面を担当する他のクリエイターとの共同作業。思いがけない自分を発見するきっかけにもなったのだとか。たくさんのクリエイターとコラボした本展でも谷川さんは気づきがあったと、次のようなコメントを寄せています。
今回の展覧会は絵本を立体化しているけれども、二次的に発展させていくことは「連詩」みたいだと思った。大勢の作り手たちと新たにコラボレーションして、こうして広がっていくのは、作者としてはとてもうれしい。
そもそも自分が作者だという意識が、あまりない。日本語が主体であり、言語が主人公なんだと、常々そう考えているから。展覧会の様子をみて、日本語が醸し出すイメージや言葉はいくらでも広がっていくんだなと、自分の想像力が広がった。「PLAY!MUSEUM」公式サイトより
日本語のことばとしての可能性やおもしろさに改めて気づかされる「谷川俊太郎 絵本★百貨展」。3つの「百貨“てん”」で思う存分に想像力を広げて、谷川さんが織りなす絵本の世界を楽しんでみてください。