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「事実はどこにあるのか」書評 誰もが実名で語れる社会へ

評者: 三牧聖子 / 朝⽇新聞掲載:2023年05月27日
事実はどこにあるのか 民主主義を運営するためのニュースの見方 (幻冬舎新書) 著者:澤 康臣 出版社:幻冬舎 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784344986893
発売⽇: 2023/03/29
サイズ: 18cm/307p

「事実はどこにあるのか」 [著]澤康臣

 「匿名報道は倫理に反する」。米国人記者の言葉は著者の心に突き刺さった。取材対象を守ることは大事だが、日本では取材対象に迷惑をかけないことばかりが優先され、公職者の報道でも匿名が多用される。こうした報道姿勢には、市民に具体的な情報を与えれば、社会的制裁など悪(あ)しき目的に使うに違いないという愚民観がちらつく。
 勇気ある実名告発者に向けられてきた中傷を見ても、この愚民観が杞憂(きゆう)とはいえない。しかし記者が市民を信頼せず、安易に匿名報道に逃げてきたことで、日本は実名での発言が困難な社会になってしまったと著者は見る。匿名のツイッター利用者は米英韓の3割に対し、日本は7割超だ。無責任な匿名発言が飛び交う社会から、誰もが実名で語れる社会へ。著者はこの理想を信じ、市民にまっすぐな信頼を寄せる。メディアにあれこれ注文をつけてきた私はこの信頼に応える市民か。メディアと自分の関わりを問い直される。