「ワグネル プーチンの秘密軍隊」書評 傭兵の人生観と感情が浮かぶ
評者: 保阪正康
/ 朝⽇新聞掲載:2023年06月03日
ワグネル プーチンの秘密軍隊
著者:マラート・ガビドゥリン
出版社:東京堂出版
ジャンル:社会・時事
ISBN: 9784490210781
発売⽇: 2023/01/27
サイズ: 20cm/309p
「ワグネル プーチンの秘密軍隊」 [著]マラート・ガビドゥリン
ワグネルと称する傭兵(ようへい)部隊の名は、ドイツの作曲家ワーグナーのロシア語読みだという。創設者がヒトラーの崇拝者であり、ヒトラーがワーグナーを好んだ故のことでもあるらしい。
この部隊に籍を置いたロシアの元軍人が、主にシリアでの軍事活動を詳細に書き残したのが本書である。ロシア政府にすれば傭兵部隊は自国の正式な軍隊ではないから、各局面で逃げ口上に使える便利な存在だ。現在はウクライナへの軍事侵略に加わり、市民へ残虐な行為を働いているかに見えるが、本書にもそういう含みのある記述が窺(うかが)える。
著者の筆遣いを分析しつつ読むと、重要な2点に気付く。1点は、傭兵として参加する兵士は独特の人生観を持っていること(経済生活の手段としての戦争)、もう1点は人間的感情に鈍磨なこと。正規軍の誤爆に反応する感情は、まさに戦争スペシャリストである。
こういう軍隊に依拠した残酷な戦争には人類史が否定されていく怖さがある。