新しい挑戦は「俳句小説」だ。
ほぼ同年代の友人たちで作る「BBK」(ボケ防止句会)で披露された俳句を、短編小説にしてしまおうという試み。12編を収録した。
《鋏(はさみ)利(と)し庭の鶏頭刎(は)ね尽くす》
若くして亡くなった女友だちを忘れられない夫。夫の母と妹も同様だ。主人公の女性は「低温火傷(やけど)のように、日常生活のなかで少しずつ圧をかけられ続けてきたことで生じた傷の痛み」を抱えてきたが、最後の最後に思い切った意趣返しをする。
《薔薇(ばら)落つる丑三(うしみ)つの刻(とき)誰(たれ)ぞいぬ》
女子大学生が拉致されて廃病院で一夜を過ごすが、生身の人間ではない女と心を通わす。「女は正義の味方で、保安官で、優しいお母さんのようなものとして描きました」
俳句は仲間たちの作品だが、作者の創意から離れて、自由に想像の翼を広げ、17音の奥底をのぞいて物語を紡いだ。ミステリー、ホラー、ファンタジーと一編ごとに違った味わいがあり、「現代」が色濃くにじむ。
俳句との出会いは11年前。「たった17音の向こう側に、豊かな世界が広がっている」と驚いた。「骨がらみの小説家」としては、俳句を小説の題材にしたい。BBKの仲間たちは「ぜひ読んでみたい」と大賛成した。それで生まれたのが『ぼんぼん彩句』だ。「私たちBBKは、まだ俳句の『凡手』ですが、お菓子のボンボンのように繊細できれいで、彩り豊かな句を詠みたい。短編集も彩り豊かなものになりますように」という願いを、本の題名に込めた。
「年を重ねて想像力が減ってきているのを実感しますが、俳句というお題に取り組むのが、ものすごく刺激になっています」
大俳人の金子兜太から聞いた言葉を心に刻んでいる。「新しい試みは、いくつになってもやればいいんだ」。未知の世界に手応えを感じている。(文・西秀治 写真・門間新弥)=朝日新聞2023年6月3日掲載