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映画「オレンジ・ランプ」貫地谷しほりさんインタビュー もっと広めたい、知ってほしい。認知症のこと

貫地谷しほりさん=篠塚ようこ撮影

社会問題を扱う作品にやりがい

――原作のある作品に出演されるときは、撮影前に原作は読まれますか?

 内容を深く知りたいので読みたいと思いますが、監督によっては「原作とは別物なので参考程度に」といわれることもあるので、読まないこともあります。舞台に出演するときは、原作は読みます。特に、歴史的な物語とか古典は、原作を読むと理解しやすいので読みますね。

――今回は、撮影前に丹野さんの著作は読みましたか?

 はい、『丹野智文 笑顔で生きる 認知症とともに』(文藝春秋)を読みました。丹野さんが、認知症ご本人として講演活動をはじめてから、国内や海外(スコットランド)、いろんなところに行かれたり、認知症についての勉強もされたりしていて、すごいバイタリティーのある方だなと思いました。そのパワーに驚きました。

――最初に出演のお話がきたときはどう思われましたか?

 映画はエンターテイメントでもありますが、社会問題を多くの方に伝えることができるものでもあると思っています。そういう作品に出演することで、いろんな人の力になれるのは、すごくやりがいがあるなと思ったので、ぜひやりたいと思いました。

(C)2022「オレンジ・ランプ」製作委員会

真央は明るく「とても強い女性」

――認知症の夫を明るく支える妻・真央という役柄は、貫地谷さんにぴったりだと思いましたが、演じる前はどんな印象でしたか?

 監督からは、とにかく明るい奥さんを演じるようにといわれましたが、とても強い女性だなと思いました。もし私だったら、会社が休みなのに晃一が出社しようとするのを見たら、心配と不安で「だから違うよ! 本当に会社から今日は休みだからっていわれてるんだから!」と、ちょっとイラッと怒ってしまいそうな場面でも、怒らない。最終的には、すごく不安だけど、本人のやりたいようにさせてあげようと任せてしまう。何かあったらどうしようって、心配だからこそ、任せるという判断はなかなかできないと思うんですよ。すごいなと思いました。

――家族は「できないことで何かあったらどうしよう」という不安があるけれど、本人は「できていたことができなくなってしまう、やらせてもらえなくなる」という不安があって、それぞれ、抱えている不安が違うんだと思いました。

 そうですね。晃一の場合、最初は不安で絶望していたと思いますが、さまざまな出会いがあって、前向きになれました。時間はまだあるから今できることをやろうって行動して、会社や友だちや周りを巻き込んでいけるパワーがあるのがすごいと思います。

 最初、こんなに理解のある人がたくさんいるなんて、そんなファンタジーのような素敵な世界があるわけがないという先入観もありました。でも、試写を見た丹野さんが「自分の話のまんまだ」っておっしゃっていて、そうか、まんまなんだな、すごいなと。会社の人たちのことや、友だちのことも本当の話ですし、人の温かさっていいな、人って温かいものなんだと教えてもらいました。

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生きたい人生を選択できる世の中に

――認知症にはどんなイメージを持っていましたか?

 私の世代だと、韓国映画「私の頭の中の消しゴム」(2004年)がすごく流行ったので、印象に残っています。すごく悲しい、切ないお話というイメージがありました。でも、今作の脚本を読んだら、すごく前向きな話で、本人の努力と周りの協力を得ることで、全く同じではないけれど、それまでと変わらない毎日を送ることができるということにびっくりして、目から鱗でした。

 それと、実は私の祖母が認知症で、母が介護をしています。私にとっては、おばあちゃんなので、間に母がいるという意味で少し距離がありますし、歳をとったらこういうこともあるよね、という感じで受け止めていますが、母は祖母がすごくチャキチャキした人で、なんでもできる人だったことも知っているので、受け入れるまでに時間がかかったと思います。母は、先に本作を見させていただいたのですが、「たくさん泣いた」ということだけで、作品の感想をあまり聞けていないので、たぶんいろんな思いがあるんだろうなと思っています。時間が経って、いろいろ話せるといいなと思います。

――私も祖母が認知症だったので、作品を見て、もっと違う接し方ができたんじゃないかと思うところがありました。

 そうですよね。でも、晃一や真央のような選択はなかなかできないとも思ってしまいます。本人や家族だけの力ではできないこともたくさんあって、いろんなものが合致しないとダメですよね。そのためにも、作品を通して認知症のことや認知症ご本人のことを知ってもらえるように広めていくことが大事だなと思います。みんなが、晃一みたいに、自分が生きたい人生を選択できる世の中になったらいいなと思います。

(C)2022「オレンジ・ランプ」製作委員会

「いつか」のために見てほしい

――作品に出演したことで、認知症のイメージは変わりましたか?

 歳をとって認知症になるのは、どこか当たり前なのかなと思っている部分もあるんですけど、晃一のように働き盛りの若いときに認知症になることを考えると、やっぱりすごく怖いです。真央さんも急に一家の大黒柱が認知症になって、娘も2人いてこれからどうしようって、経済的な不安もあったと思うし、漠然と怖いですよね。自分だったらどうするかなって、正直、ふたりのように強く生きられないんじゃないかなって思ってしまいますが、もしそうなったときは、ふたりのようなパワーや底力があることを自分自身に期待したいです(笑)。

 作品は、だれもが認知症になるかもしれないので、いつかのために見てほしいなと思います。笑えるシーンもあるので、気軽に観ていただいて、なにかあったときに一歩を踏み出せる手助けになったらいいと思っています。

――作品の原作以外にも、ふだん読書はされますか?

 します。年々、ノンフィクションを読むことが多くなりました。うちは、夫がよく本を買ってトイレに置いてあって、自分では買わないような本もあるので面白く読んでいます。最近読んだのは、お金の成り立ちについて書かれた本とか。風水的に、あまりトイレに本を置かない方がいいらしいんですけど(笑)。

 あとは、昔からすごく漫画が好きで、いろんなジャンルを読んでいます。いつなんどきでも読みたいので、携帯の容量を2TBにしました(笑)。今、3,000冊くらい入っていて、楽しんでいます。