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「ヨーロッパの極右」書評 革命恐れる気質 歴史から分析

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2023年07月01日
ヨーロッパの極右 著者: 出版社:みすず書房 ジャンル:社会・文化

ISBN: 9784622095910
発売⽇: 2023/04/20
サイズ: 20cm/370,54p

「ヨーロッパの極右」 [著]ジャン=イヴ・カミュ、ニコラ・ルブール

 オランダの政治学者カス・ミュデによると、「極右」は、ナショナリズム、排他主義、ポピュリズム、反主流派の精神、エコロジーへの関心などを備えているという。これに当てはまるのは1980年代から2000年代までの選挙で勝ち、識者に極右と分類された西欧のあらゆる政党――フランスの国民戦線、イタリアの北部同盟や国民同盟などだと指摘する。仏伊だけでなく、ヨーロッパ全域に極右政党は存在し、自らの主張を言論で、時には暴力で表出している。
 本書は、極右勢力の歴史的な流れを追いかけると同時に、現状を仔細(しさい)に見つめている。極右という語が初めて用いられたのは、フランスのシャルル10世の時代(19世紀)だ。やがて来る革命を恐れる気質が、そのような思想を生んだのであろう。この極右の流れを、著者はヨーロッパ各国史の節目で浮上する政治的対立に組み込んで論じるので、全体図がよくわかる。例えばナチズムは、極右のさまざまな要素を練り上げてできている。このモデルは各国固有のナショナリズムに接ぎ木され、模倣されていく。
 二つの大戦の戦間期に、フランスで論議された「ユーラフリカ」構想(植民地をヨーロッパ諸国の共通の財産とし、ヨーロッパ建設の可能性を探る)は、ドイツへの融和策だったが、戦後も別な視点からこの構想は真剣に論議されている。こうした推移を見ると、極右的発想は時に左派の国際社会の連帯とも交錯することがあると気付かされる。
 著者は、ネオリベラルなポピュリスト政党が持つイスラムへの嫌悪感や、かつての東側諸国の極右勢力についても触れている。ロシアの極右は自尊心や白人至上主義への傾斜が目立つという。純粋なるロシアを求めているのであろう。
 最終章では、極右が存在しない国を挙げる。民衆文化などが国民に共有されているアイスランドや、立憲君主制の小さな国々という指摘は首肯できる。
    ◇
Jean-Yves Camus 1958年生まれ。政治学者▽Nicolas Lebourg 1974年生まれ。歴史学者。ともに極右を研究。