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日本人の眼差し探る「B―29の昭和史」 田中大喜が選ぶ新書2点 

『B―29の昭和史 爆撃機と空襲をめぐる日本の近現代』

 日本人にとって太平洋戦争を象徴する存在となったB―29。若林宣(とおる)『B―29の昭和史 爆撃機と空襲をめぐる日本の近現代』(ちくま新書・1078円)は、同時代の新聞・雑誌・日記・回想録等の豊富な資料から、B―29に対する日本人の眼差(まなざ)しとその根底に潜む問題点を析出する。

 日本を焦土化した爆撃機にもかかわらず、当時の日本人の多くはB―29に「美しさ」を感じた。そこには西洋に対する後進国としての劣等感があり、それは中国・朝鮮に対する優越感のまったくの裏返しだったという。戦後80年近く経つが、我々はこの眼差しから解放されたのだろうか。
★若林宣(とおる)著 ちくま新書・1078円

『読み書きの日本史』

 識字能力は言語能力と異なり、長年にわたる習練の結果によって獲得されるものである。八鍬友広『読み書きの日本史』(岩波新書・1166円)は、古代から近代の日本社会における識字の広がりと実践の様相を明らかにする。

 前近代の日本人は、中国からもたらされた手紙の模範文例集である「書儀」とその系譜を引く「往来物」から、読み書きを始め多様な知識を学んだ。板書などの「書字」に依拠する現代日本の学校教育の特色も、これを教材としてきたことに由来するという。日本人の識字能力と学校教育の基盤となった往来物の総合性に瞠目(どうもく)する。
★八鍬友広著 岩波新書・1166円=朝日新聞2023年7月8日掲載