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「河原者のけもの道」書評 闘病のなか語られた芝居と人生

評者: 椹木野衣 / 朝⽇新聞掲載:2023年07月29日
河原者のけもの道 著者:桃山 邑 出版社:羽鳥書店 ジャンル:芸術・アート

ISBN: 9784904702918
発売⽇: 2023/06/12
サイズ: 19cm/393p

「河原者のけもの道」 [著]桃山邑

 桃山は劇団「水族館劇場」を35年にわたって牽引(けんいん)した。芝居は寺社の境内などに仮設の巨大なテントを組んで演じられ、大量の水を落とす。幕が引けば演者と客が酒を交わす。私は新宿の花園神社で初めて見た。「アングラ」感は不思議とない。新鮮な驚きだった。
 本書の企画は余命宣告下で始まった。「ぼくに残された時間はそれほど多くない」で始まり「いよいよお別れのときですね」で結ばれるのはそのためだ。桃山は本書を手に取ることなく世を去ったが、最後まで思うものに近づけようとした。それはあとがきの日付が死去した月と同じなことにも見て取れる。
 闘病のなか8時間に及んだ生い立ちからの語り尽くしのほか、造本にも注目したい。音楽評論家、中村とうようの主著『大衆音楽の真実』と瓜(うり)二つなのだ。すると「河原者のけもの道」とは“大衆藝能(げいのう)の真実”の桃山流「剽窃(ひょうせつ)謀術=芝居」かもしれない。だが「真実」ならこの芝居にもきっと「終わり」はない。