たまたま女性に生まれたら、高校の通学電車で痴漢から下着に手を入れられた。大学時代のバイト先でセクハラとパワハラにあい、被害を訴えたら無視された。それでも、「世の中とはこういうもの」「私も悪い」と痛みを抱えて生きてきた。
大学院を修了後、ライターやウェブ媒体の編集長を務めた。性被害やフェミニズムへの関心を強めたのは、性犯罪を厳罰化する改正刑法が成立した2017年の1~2年ほど前。改正を求める団体を取材したときに、遠いと思っていた法律が、自分という個人とつながっていることを知った。被害者の人権が必ずしも尊重される内容ではないとも感じた。「賢い人たちがいい社会システムを作ってくれていると思っていたのに、全然そうではなかった」
それからは裁判所に通い、性暴力に関する事件を中心に取材。自身のウェブ媒体や本で、法制度や社会のあり方に疑問を投げかけてきた。政治家・著名人の発言、広告に潜む差別的視線や、それを受け流すマスコミとSNS上の空気も見逃さない。
単著は今回で3作目。弱者の訴えが「ほとんどない」ことにされる状況に異を唱える姿勢は変わらないが、「前作は取材も書くのもつらすぎた」と、笑いのこぼれるエッセーも収録した。結婚制度に「安易に乗っかった」と悔やんだり、具合が悪くて行った病院で、症状が軽いからとなかなか処置が受けられなかったり、自分の毛深さに悩んだり。
身に覚えのあるささやかな話題だが、読み重ねると問題は自分の外側にあると見えてくる。「私も悪い」なんてことはない。徹底して差別される側に立って取材してきたからこその視点に、読者は勇気づけられる。「ぼーっとしてると誰も何も変えてくれない。ちょっとした意識の積み重ねが、世の中を変えると思う」(文・写真 真田香菜子)=朝日新聞2023年7月29日掲載