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現代歌人協会賞に鈴木加成太さん・田村穂隆さん「文芸とは弱い人に寄り添う孤独な器」「身体と和解したい」

現代歌人協会賞を受賞した鈴木加成太さん(右)と田村穂隆さん=東京都千代田区

 若手歌人の登竜門として知られる第67回現代歌人協会賞(現代歌人協会主催)に、鈴木加成太(かなた)さん(29)の「うすがみの銀河」(角川書店)と、田村穂隆さん(26)の「湖(うみ)とファルセット」(現代短歌社)が選ばれた。東京都内で6月に開かれた授賞式で、2人は受賞に至る歩みを振り返りつつ、抱負を語った。

 選考委員長の東直子さんは、鈴木さんの受賞作から〈しろがねの梯子に百の素足ふれプールの水の綾へ降りゆく〉に触れ「日常的な場面から非日常へ入り込むような言葉の使い方に、優れた表現力がある」と評した。田村さんの受賞作からは〈ひげを抜きたいひげを抜きたいひげを抜く 脳に何かがみなぎる感じ〉を紹介し「自身の男性性に対する違和感を探ろうとする内的な衝動に打たれた」と述べた。

 鈴木さんは17歳で歌を作り始め、21歳で角川短歌賞を受賞。就職を機に結社誌「かりん」に参加した。受賞スピーチで自分を文芸の道に導いた友人が心の不調で苦しんだことに触れ「文芸、文学とは、本来彼らにこそ寄り添い、彼らによってこそ輝きをもたらされる、孤独な器だったのでは」「今回の賞は私の背後にある、弱く貧しい人々の孤独と悲しみに向けられたもの」と語った。

 工業高等専門学校出身の田村さんは学生時代から塔短歌会に所属し、地元の島根歌会に参加。「若い人のよくわからない歌だと言わずにちゃんと読んでくださって、それをずっと繰り返して今があります」と振り返った。「身体(からだ)があることはしんどいことだったけれど、短歌を作ることで身体と和解したいなと思う。評価に甘んじることなく、もっと考えて短歌を作っていきたい」と語り、盛んな拍手を浴びた。(佐々波幸子)=2023年8月2日掲載