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「女性の自立をはばむもの」書評 男尊女卑的な教義が「分業」肯定

評者: 山内マリコ / 朝⽇新聞掲載:2023年08月05日
女性の自立をはばむもの 「主婦」という生き方と新宗教の家族観 著者:いのうえ せつこ 出版社:花伝社 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784763420626
発売⽇: 2023/05/09
サイズ: 19cm/154p

「女性の自立をはばむもの」 [著]いのうえせつこ

 なぜ、宗教の勧誘は平日の昼間にやって来るのか?
 高度経済成長の時代、都市部にかき集めた男を長時間労働で酷使するため、女は家庭、という性別役割分業が固定化された。ところが1980年代になると女性も社会進出をはじめ、「結婚」以外の選択肢ができる。自立を目指す新しい女性像を横目に専業主婦たちは自信を失(な)くし、これでよかったのだろうかと不安に駆られた。かくして、昼下(さが)りにピンポンが鳴る。
 主婦と新宗教。その二つを結びつけているのが、明治の家父長制を礼賛するかのような古い家族観だ。「夫を立てよ」と説く男尊女卑的な教義は、時代の流れに取り残されつつあった主婦を肯定し、彼女たちの居場所となっていった。同時に、票が欲しい政権にも影響を及ぼしていたことが、昨年の安倍晋三元首相銃撃事件により発覚した。
 著者は30年以上前に新宗教を取材し、そのすべてを見抜いていた。この国が、女性の自立を阻んできた来歴を、本書は見事に展望していく。
 かつて女性は結婚する以外に生きていく手立てがなく、現代においても結婚制度の外側にいる女性の多くが貧困状態にある。そうなる“仕掛け”なのだ。
 あのとき決まったあの制度、あの法律で、今こんなことになっているのだという生きづらさの根っこが解き明かされ、むしろ新しく作られた制度や法律の裏をかく形で、女性の立場がより脆弱(ぜいじゃく)になっていることがよくわかる。そして本の終着地点は、政治との関係も深い新宗教。これによって、今の日本の問題点をくっきりと浮かび上がらせた。
 80年代のある時期、「社会はたしかに男女平等に向かって進んで」いたという。ところがそこからもう何十年も、日本は負のループにはまり、足踏みしている。その停滞の元凶こそ、女性を前進させまいと足を引っ張る厄介な病癖にあることは、火を見るよりも明らかなのだが。
    ◇
いのうえ・せつこ 1939年生まれ。女性や平和などの市民活動を経て、執筆活動へ。著書に『チヨさんの「身売り」』『新宗教の現在地』など。