1. HOME
  2. コラム
  3. コミック・セレクト
  4. かつしかけいた「東東京区区」 街の記憶、まちまちな3人通して

かつしかけいた「東東京区区」 街の記憶、まちまちな3人通して

©かつしかけいた

 東京の南の端に住んで久しいが、東東京が舞台の本作に慣れ親しんだものを感じた。低地であること、観光地化された場所と洗練とは程遠い雑然とした路地のコントラストが強いこと、海外からの移民がとみに増えていることなど共通点が多いからかもしれない。

 ムスリムの大学生・サラとエチオピア人の両親を持つ小学生のセラム、歴史好きで不登校の中学生・春太。ふとしたきっかけで出会った3人は、東東京を歩き、街の魅力を見つけ出す。それは、このエリアに屹立(きつりつ)するシンボリックな塔の歴史であったり、「柴又っぽさ」の背景であったり、かつて小岩にあった水上マーケットだったりする。いま目の前にある表層の東京より以前の土地の記憶が、年齢もルーツも区区(まちまち)な3人の視点を通して脳内に流れ込んでくる気がするのは、街の描写が精緻(せいち)かつ魅力的だからだろう。

 これまで、「街は個人が抱くノスタルジックな感情を置き去りにして変化していく」と感傷的に捉えていたが、それはメディアによって編集された街をなぞっていただけだったのかもしれない。本作を読み、地形と歴史と人の営みの集積が街を作りだしているのだなとしみじみ感じて、前より東京が好きになった。=朝日新聞2023年8月5日掲載