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「フキダシ論」書評 新たな視点生む分析

評者: 稲泉連 / 朝⽇新聞掲載:2023年08月12日
フキダシ論 マンガの声と身体 著者:細馬宏通 出版社:青土社 ジャンル:マンガ評論・読み物

ISBN: 9784791775637
発売⽇: 2023/06/26
サイズ: 19cm/274,11p

「フキダシ論」 [著]細馬宏通

 漫画で描かれる「フキダシ」とは、いかなる機能を持っているのだろうか。本書は行動学者である著者が、自身の専門性を活(い)かしたユニークな視点から、漫画表現の奥深さを論じた一冊だ。
 私たちは漫画を読むとき、コマに描かれるフキダシによって様々な情報を受け取っている。その情報には声に出されたものだけではなく、声に出されなかったものも含まれている。
 著者は「三項関係」「関係分析」「環世界」「ゆるやかな規則」といったキーワードから、多様な作品の実際の表現を一つひとつ取り上げ、作家の企(たくら)みを読み解いていく。
 フキダシの仕掛けに読者が感じるだろう身体性や、漫画でしか表現し得ない多彩な世界――。例えば、登場人物がその表現の世界の中で持つ知覚を、生物学者のユクスキュルが提唱した「環世界」の概念を用いて解説する過程などには、漫画を読む上での新たな視点が拓(ひら)けていく面白さがあった。