「図書館がくれた宝物」
舞台は第2次世界大戦さなかの1940年のイギリス。12歳のウィリアム、11歳のエドマンド、9歳のアンナの3きょうだいは、両親を亡くし厳格な祖母に育てられていたが、その祖母も死去すると居場所を失う。そこで弁護士に勧められ、ロンドンからの学童疎開に合流して田舎の村に行くことになる。疎開先では3人とも同じ家庭に迎えられ安心したのもつかの間、その家の子どもたちから陰湿ないじめを受ける。次に預けられた家庭では、寝る場所にも食べるものにも事欠く始末。
そんなつらい日々のなかでホッとできる場所は、村にある図書館だけ。そこには司書のミュラーさんがいて、子どもたちひとりひとりにぴったりの本をさがして貸してくれる。やがて3きょうだいは、ドイツ人の夫を持つミュラーさんも村人から疎外されていることを知り、さらに親しく心を通わせ合うようになっていく。
本や図書館や理解者から力をもらった子どもたちが、それぞれの個性を失わずに生きていくのがいいし、幸せな結末もうれしい、心あたたまる物語。(ケイト・アルバス作、櫛田理絵訳、徳間書店、2090円、小学校高学年から)【翻訳家 さくまゆみこさん】
「心をひらいて、音をかんじて 耳のきこえない打楽器奏者 エヴェリン・グレニー」
音は耳で聞くもの。そんな常識をさわやかに叩(たた)き壊してくれる絵本。幼い頃から楽器に触れ、音楽とともに育ったエヴェリンは、12歳でほとんど聴力を失います。でも中学で打楽器と出会い、空気の震えから音を体で感じられるように。感覚が研ぎ澄まされ、音楽家への道を歩みます。
グラミー賞を2度受賞した世界的な打楽器奏者の半生を描いた伝記絵本。目で見る豊かな音楽が読者の体にも響きます。諦めないで自分の心の声を聞いて、道をひらいてきた音楽家と作者のことばに勇気づけられます。(ストッカー文、ホルズワース絵、中野怜奈訳、光村教育図書、1760円、小学校低学年から)【絵本評論家 広松由希子さん】
「もぐらけんせつ りすさんいっかの木のおうち」
安全第一のもぐらけんせつは町一番の工事の会社。そこにおうちが傾いてしまったりすさん一家がやってきます。大切なおうちはなんとかなるでしょうか?
問題点を丁寧に突き止め、お客様の希望以上の仕事をするもぐらけんせつの手腕の見事さ。細かく描かれた重機や現場の様子。思わず見入ってしまいます。見返しにも、働く車の紹介や工事の報告書などの見どころがたくさん。お客様の心に寄り添う職人の仕事にあっぱれ! もぐらけんせつのみんなと一緒に汗をながしたくなります。(長崎真悟作、童心社、1430円、3歳から)【丸善丸の内本店 兼森理恵さん】=朝日新聞2023年8月26日掲載