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絵本「アニマルバス」シリーズ 見習いバスがお仕事に奮闘! 誰かのために頑張る気持ちを応援

『アニマルバスとパンやさん』(ポプラ社)より

キャラクターから生まれた絵本

――動物がバスになるというアイデアは、どんな発想から生まれたのですか。

こてらしほ(以下、こてら):私はクーリアという会社でデザイナーをしているのですが、そこで新キャラクターを募集する社内コンペがあって、そのときにできたのが「パンダバス」でした。実はヒットキャラクターを出そうとたくさんのアイデアを作っていた中で、ちょっと疲れて手休めのつもりでゆるく描いたキャラクターでもあったんです。それが動物と乗り物の掛け合わせということもあり社長が気に入ってくださって、そこから展開して絵本化やアニメ化のお話をいただくことができました。クマバスのベアード、プードルバスのモコなど、絵本を作るときにキャラクターも増えていったんです。絵本第1作目の『アニマルバスとわすれもの』が好評で、シリーズ化で続編が出ることが決まったときに、文章をあさのますみさんにお願いすることにしました。

あまえんぼう、せっかちなど、「アニマルバス」に登場するキャラクターは個性派ぞろい

――シリーズ2作目『アニマルバスとパンやさん』では、パン屋さんもお客さんもどっちも喜んでくれる方法を、アニマルバスのみんなで考えていく様子に応援したくなりました。

あさのますみ(以下、あさの):このシリーズに出てくるアニマルバスたちは、まだ見習いで不器用なのですが、失敗しながらも、一歩ずつ成長するお話になっていて、このときは山の上にあるパン屋さんをみんなで宣伝する内容にしました。こてらさんの緻密な絵を生かしたかったので、パン屋さんという設定がぴったりだなと。あがってみたら、思った以上にパンがおいしそうで、もうズキューンときましたよね。いつも細かいところにたくさん描き込みがあって、こてらさんの絵は見ているだけでワクワクします。

こてら:このときはたくさんのパンを描いたので、自分でもパンを買ったり、パン屋さんの雑誌を見たりして、いろんなパンを研究しました。シーバとラビィがパン屋さんのチラシを描くシーンが好きですね。いつもはペンタブレットで絵を描いているのですが、子どもっぽい字を表現したくてマウスを使って書いたものもあります。性格から、どっちの子がどのチラシを描いたのか、想像してみてほしいです。

『アニマルバスとぱんやさん』(ポプラ社)より

あさの:1作目でもうキャラクターの世界観ができあがっていたので、そこからお話の空想をふくらませていく作業は楽しかったです。私は声優の仕事もしているので、いただいたキャラを頭で膨らませるというのは、演じる仕事に近いところもあると感じます。絵本を作るときは、ずっとアドリブでしゃべっている感覚に近いと言いますか。それぞれの個性的なキャラが、きっとこんなふうに考えるだろうな、こんなふうに話したらおもしろいな、と考えながら作っています。

『アニマルバスとぱんやさん』(ポプラ社)より

遊び心いっぱい! 細かい描写にも注目を

――この絵本は、アニマルバスたち以外の街の人たちも細かく描かれていて、見るだけでもいろいろな発見がありますね。

あさの:こてらさんは、絵本の世界観を絵でどんどん膨らませてくださり、本筋と別のところにもちょっとしたキャラを描いたりと、楽しさをたくさん作ってくれるんです。例えば、アニマルバスの中にも「タヌー」といういたずら好きで変化(へんげ)できるバスがいて、いつも隠れているんです。みんなと一緒に頑張らないけれど、しげみの陰でこっそり見ている。でも、毎回読者はがきで子どもたちが一番言及してくるのが、このタヌーなんですよ。子どもたちは気づいて楽しんでいるんだなあと嬉しくなりました。

こてら:ときどきタヌーの変化した二足歩行バージョンも描いているので、見つけてみてください。こういうモブ(脇役)を考えるのが好きなんです。主役じゃなくても、ずっと物語の中に生きているキャラクターと考えています。毎回、バスをカメラで撮影するカメも登場するんですよ。撮り鉄のように三脚をたてて、バスのベストショットを狙っているという(笑)。

『アニマルバスとわすれもの』(ポプラ社)より 隠れるタヌーとカメラを構えるカメ

前向きで優しい気持ちを受け取って

――それぞれの巻に、テーマのようなものは設定しているのですか。

あさの:実はアニマルバスは、タイトルを5文字にするという密かな縛りがあるんです。8月に出た最新刊のタイトルも、『アニマルバスと……』の後に、何かワクワクするような5文字をつけたいと思っていました。「ほしまつり」というと言葉から想像が膨らみますし、きっとこてらさんが素敵なアドリブをたくさん入れてくれる! と確信してこれにしました。お話を考えるときは、いままでの表紙を並べてみて「かぶらない色ってなんだろう」と考えてから作るようにしています。私自身、シリーズもので表紙の色味が全然違うと「今回はどんなお話なんだろう!」とワクワクするので、そうしています。ほしまつりでは、ベアードのいとこのバスが登場する設定で、運転が不慣れな小さくてかわいいバスと、まわりのバスとの関係性にも注目してほしいです。

こてら:この作品は、いままでのシリーズで出てきたモブの子たちが勢ぞろいしているんですよ。あのときのあの子がここに! というのを見つけていただく楽しみもあるかなと思います。星のモチーフの食べ物や飾りを考えるのも楽しかったです。

『アニマルバスとほしまつり』(ポプラ社)より

――読者からの反響がすごくある絵本ですが、このシリーズを通してどんな想いが伝わったらいいなと思いますか。

あさの:絵本自体を純粋に楽しんでほしいですが、それに加えて「多幸感」というか、守られている、大切に思われている温かい感じをほんのりとでも受け取ってもらえたら嬉しいです。アニマルバスはお客さんのことを大切に思って、どうやったら喜んでくれるか、楽しい気持ちになってくれるか、怖い思いをしないですむかと考えます。お客さんのために怖いものを乗り越えよう、苦手なものを克服しようと思っているバスたちの姿を見て、温かさのようなものを感じてもらえたらと。また、物語の中ではお客さんも、アニマルバスに感謝したり、時には助けてくれたりする。優しい気持ちの行き来がそこにはあるんです。

こてら:私も、誰かを楽しませるために頑張ろうとか、憧れに向かって進もうという気持ちが、絵本から伝わったら嬉しいなと思います。アニマルバスは、「仕事」のお話でもあります。私もいま絵本という憧れの仕事を通して、まわりの人に助けられながら、読者の人を楽しませたい思いで描いています。自分がやっていること自体がここに反映されてるのかなとも思いますし、そのいろいろな感謝や喜びが楽しい形で伝わっていたらいいなと思っています。