1. HOME
  2. コラム
  3. ひもとく
  4. 日本の文民統制 自衛隊と政治、移ろう関係性 青井未帆

日本の文民統制 自衛隊と政治、移ろう関係性 青井未帆

自衛隊観閲式で巡閲する岸田文雄首相=2021年11月、陸上自衛隊朝霞駐屯地

 2022年12月のいわゆる安保3文書改定に当たり、岸田文雄首相は「大転換」という言葉を使った。時代の空気のなかで、国の安全保障が語られる際の文法が変わりつつあるように感じる。

 自衛隊の活動範囲をめぐり、もはや政府は憲法適合性を詳細には論じなくなっている。しかし政府は、その意味やこの間の変化を、国民にきちんと説明してきていない。いったい政治と自衛隊はいかなる関係としてあるのか。どうあるべきなのか。自衛隊と政治の関係を考える3点を紹介したい。

「大臣になんて」

 最近、テレビドラマ「VIVANT(ヴィヴァン)」を通じて、陸上自衛隊の「秘密部隊」や、そこで使われた組織の通称「別班」に関心が寄せられているようである。

 石井暁『自衛隊の闇組織』は、著者が執筆し共同通信が配信して反響を呼んだ、陸自の非公式組織「別班」のスクープを書物にまとめたものである。陸自には首相や防衛相にも存在が知らされていない組織があり、海外情報活動をしていることを綿密な取材から明らかにする。著者の問題関心は、民主主義国家の大原則である文民統制との整合性にあった。

 記事公表後も、かかる組織の存在は確認されないとして、公には認知されていない。本書第4章では、スクープ後の政治による対応を記録する。「長くても2年ぐらいしかいない大臣になんて言うはずがない。そういうことかなあ」という小野寺五典防衛相(当時)がもらした言葉は、政治と自衛隊の信頼関係に関わる。わが国で政治は自衛隊を十分にグリップする力を持っているのか。

未熟な政軍関係

 長らく、日本国憲法9条の下で安全保障政策は、合憲性確保に多くのリソースが割かれてきた。自衛隊の統制に主眼が置かれ、冷戦下を通じて、文民統制は特殊日本的な制度として展開していた。大まかにいうなら、防衛参事官制度に象徴される内部部局(内局)優位の仕組みによる統制である。これは文「官」統制という言葉で批判されてもきた。

 時代につれ、文民統制をめぐる法制やあり方は変化してきている。冷戦終結前後の期間で、周辺事態法などの立法過程の事例分析を通じてこの変化を描き出すのが、武蔵勝宏『冷戦後日本のシビリアン・コントロールの研究』である。主体と客体という観点から、文民統制に関係するアクターや相互の関係の変化を跡づける。内閣機能の強化によって、内閣官房の役割や、首相や官房長官の影響力が大きくなった。また首相や旧防衛庁長官(防衛相)に対する制服組の補佐機能も強化されてきている。

 本書が明らかにするように、冷戦後には自衛隊の運用により多くの主体が関わるようになっている。第2次安倍晋三政権後、法制がさらに変化しており、今日の安全保障政策は、冷戦終結前後から比べると、大きく様変わりした。そのような中で、私たちの意識は変化についていけているだろうか。

 廣中雅之『軍人が政治家になってはいけない本当の理由』は、11年の東日本大震災時に幹部自衛官として自衛隊の作戦行動を指導した経験を持つ著者が、日本の政治と自衛隊の関係が抱える問題を、政軍関係の観点から明らかにする。

 政軍関係は文民統制の上位にある概念であり、国民とその代表者による政治、そして自衛隊の関係を、政治指導者による軍事政策の決定過程と結果を含むダイナミックな相互作用として見るものである。

 わが国の政軍関係が未熟であるという著者の指摘は重い。文民政治家の力量、そして選挙によって政治家を選ぶ私たちの見識が問われよう。また、憲法9条を起点とする統制論も依然、潜在力を持っている。=朝日新聞2023年9月9日掲載