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「明日への日本歴史」完結、五味文彦さんインタビュー 通史で見渡す社会の未来

五味文彦さん

 研究の細分化が進む現代では、ある国の通史を1人の研究者が書くのは至難の業だ。そんな“偉業”を、網野善彦の『日本社会の歴史』(1997年、岩波新書、全3冊)以来、約四半世紀ぶりに成し遂げた。

 4巻シリーズの最終巻となる本書は、天保の改革から始まり、近代国家の誕生や十五年戦争をへて、高度成長が本格化するまでを、文化の動きなどをおさえながら淡々と描く。

 2015年から20年に出版した『文学で読む日本の歴史』(全5巻、山川出版社)の執筆時から、「日本の歴史を50~100年単位でとらえた通史を書きたいと思っていた」という。「1960年代で筆を止めたのは大学紛争の時代が終わり、民主主義自体、あまり叫ばれなくなるから。かわって問題になるのが環境であり、社会のあり方。日本の歴史を振り返ることで、明日の世界が見通せないかと考えました」

 甲府市生まれ。東京大学の教養部時代に丸山真男の政治思想史と大塚久雄の経済史の講義を聴き、「2人とも日本の歴史の理解が足りない」と感じて、「当時、日本史で最もわけがわからない時代とされた中世史の研究をやることにした」と笑う。

 中世の政治史研究で一時代を築いた佐藤進一と、考古学や民俗学との学際的研究を踏まえて新たな中世史像を切りひらいた石井進に師事。その影響を受けて、絵画や文学の研究へと手を広げた。政治史と文化史が混在しながら叙述が進む本書は、筆者ならではの一冊と言える。

 東京大学と放送大学で教えた後、現存する日本最古の学校といわれる栃木県の足利学校で2021年から庠主(しょうしゅ)(校長)を務める。「中世の足利学校では医学の授業があり、武蔵国の川越の茶が飲まれていた。次は病院や喫茶の歴史に関する研究をそれぞれ本にまとめたい」(文・宮代栄一 写真・倉田貴志)=朝日新聞2023年10月7日掲載