2023年のペナントレースをぶっちぎりで優勝した阪神タイガース。
迎えたクライマックスシリーズファイナルステージ。幸運にも第1戦、第2戦と甲子園で観戦することができた。2戦とも広島カープに先制点を取られながら逆転する展開にしびれた。
翌日は帰京し、テレビでCS優勝を見届けた。AREの時のような涙も胴上げもない。堂々とした態度で勝利を喜ぶ選手の姿が頼もしい。
ARE達成からCSまで約1カ月空いたが、今年の強さを持続したままだった。
ほんまに強いわ、タイガース。
パリーグはオリックスバファローズがCSを制覇したことで、59年ぶりの日本シリーズ「関西ダービー」実現。我が人生では初のダービー。試合はもちろんだが、関西でどんな風景が見られるかにも興味がある。
ところで日本シリーズの前には、ドラフト会議がある。
私はCSファイナルステージの前日、神宮球場で開催された東都大学野球秋季リーグ戦を観戦した。今年のドラフト1位候補の学生が複数登板する日だった。
10月26日のドラフト会議で阪神が1位指名したのは、地元・兵庫県西宮市出身の下村海翔投手(青山学院大)。この日も登板し、力強い投球を見せてくれた。2位は四国IL・徳島の椎葉剛投手。2人とも「朗希世代」だ。
今年のドラフト候補の大学生たちは、佐々木朗希世代と呼ばれている。
阪神タイガースでは西純矢投手、及川雅貴投手がその世代。
オリックス・宮城大弥投手、中日・岡林勇希選手など、各チームで朗希世代の活躍が目立っている。
松坂世代、大谷世代、とつけられた世代は、それだけ有望な選手がそろっていたとも言える。
マスコミが作り出した「00世代」という言葉が、いつしか独り歩きし始め、当たり前のように使われるようになった。
佐々木朗希世代と呼ばれるドラフト候補生たちは、佐々木投手に会ったことがなくても、当然意識するだろう。
自分事で同い年、同業者の名前を挙げるなら、「ゴクミ」こと後藤久美子さんと宮沢りえさん。
私がデビューした時、2人はすでにスターだった。
「団塊ジュニア世代」「第2次ベビーブーム世代」の象徴でもあった2人。年を重ねてますます輝くふたつの星を見上げながら、私も同じく年を重ねてきた。
ちなみに元野球選手ならイチローさんは同い年。松中信彦さんは誕生日も同じだ。
リルケ「若き詩人への手紙 若き女性への手紙」は、詩人リルケがある青年に書き送った10通の書簡が収められている。
孤独な青年は、リルケに自作の詩の批評をしてほしいと頼んだ。
言い方を変えると、自作が他の詩人に劣らないかどうかを知りたかったのだろう。
しかしリルケは批評せず「あなたが詩を書かずにいられない根拠を深くさぐって下さい」と青年に助言する。
自分が何者であるか、それは自分ではわからない。
誰かと比較し、はじめてわかることがある。
成績表も、内申書も、受験も、オーディションも、すべては他者との比較から生まれる結果だ。
しかしリルケは青年に自らの内を見つめることをすすめた。
自分の内に比べる対象はない。同世代も同期もなく、いるのは自分だけ。
読みながら、青年の気持ちになってリルケの言葉を受け止めた。
ドラフトは多数の候補生と比較され、一方的に選ばれるが、自分では選べない(断るのは自由だけど)。
プロの世界に入るということは、その入り口から常に競争なのだ。
他者との比較から、生き残るために必要な技術、スキルを磨いて、ポジション争いを制する。
一方で他人と比べられないのは、心の内。それは情熱か信念か、本人のみぞ知る。
好きなだけでは続けられないけど、好きでないとやっていられない。
野球だけでなく、何事にも共通するもの。
佐々木朗希世代とひとまとめに表現されるが、それぞれが孤高の存在として、自分の道を行くだけ。
ドラフトは選手も、球団側も時の運次第。
選手になったその先にどんな未来が待ち受けているか、さらにわからない。
未来の戦力が生まれるドラフトは、「戦力外選手」が公表される時期と重なる。
野球の光と影の季節、ついに日本シリーズが始まる――。