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CS制覇~ドラフト会議。プロの世界に入った新人選手に贈るリルケ「若き詩人への手紙」 中江有里の「開け!野球の扉」 #7

(Photo by Ari Hatsuzawa)

 2023年のペナントレースをぶっちぎりで優勝した阪神タイガース。
 迎えたクライマックスシリーズファイナルステージ。幸運にも第1戦、第2戦と甲子園で観戦することができた。2戦とも広島カープに先制点を取られながら逆転する展開にしびれた。
 翌日は帰京し、テレビでCS優勝を見届けた。AREの時のような涙も胴上げもない。堂々とした態度で勝利を喜ぶ選手の姿が頼もしい。
 ARE達成からCSまで約1カ月空いたが、今年の強さを持続したままだった。
 ほんまに強いわ、タイガース。

 パリーグはオリックスバファローズがCSを制覇したことで、59年ぶりの日本シリーズ「関西ダービー」実現。我が人生では初のダービー。試合はもちろんだが、関西でどんな風景が見られるかにも興味がある。

(Photo by Ari Hatsuzawa)

 ところで日本シリーズの前には、ドラフト会議がある。
 私はCSファイナルステージの前日、神宮球場で開催された東都大学野球秋季リーグ戦を観戦した。今年のドラフト1位候補の学生が複数登板する日だった。
 10月26日のドラフト会議で阪神が1位指名したのは、地元・兵庫県西宮市出身の下村海翔投手(青山学院大)。この日も登板し、力強い投球を見せてくれた。2位は四国IL・徳島の椎葉剛投手。2人とも「朗希世代」だ。

阪神に1位指名された青山学院大の下村海翔投手。

 

 今年のドラフト候補の大学生たちは、佐々木朗希世代と呼ばれている。
 阪神タイガースでは西純矢投手、及川雅貴投手がその世代。
 オリックス・宮城大弥投手、中日・岡林勇希選手など、各チームで朗希世代の活躍が目立っている。
 松坂世代、大谷世代、とつけられた世代は、それだけ有望な選手がそろっていたとも言える。
 マスコミが作り出した「00世代」という言葉が、いつしか独り歩きし始め、当たり前のように使われるようになった。
 佐々木朗希世代と呼ばれるドラフト候補生たちは、佐々木投手に会ったことがなくても、当然意識するだろう。

 自分事で同い年、同業者の名前を挙げるなら、「ゴクミ」こと後藤久美子さんと宮沢りえさん。
 私がデビューした時、2人はすでにスターだった。
 「団塊ジュニア世代」「第2次ベビーブーム世代」の象徴でもあった2人。年を重ねてますます輝くふたつの星を見上げながら、私も同じく年を重ねてきた。
 ちなみに元野球選手ならイチローさんは同い年。松中信彦さんは誕生日も同じだ。

(Photo by Ari Hatsuzawa)

 リルケ「若き詩人への手紙 若き女性への手紙」は、詩人リルケがある青年に書き送った10通の書簡が収められている。
 孤独な青年は、リルケに自作の詩の批評をしてほしいと頼んだ。
 言い方を変えると、自作が他の詩人に劣らないかどうかを知りたかったのだろう。
 しかしリルケは批評せず「あなたが詩を書かずにいられない根拠を深くさぐって下さい」と青年に助言する。

 自分が何者であるか、それは自分ではわからない。
 誰かと比較し、はじめてわかることがある。
 成績表も、内申書も、受験も、オーディションも、すべては他者との比較から生まれる結果だ。
 しかしリルケは青年に自らの内を見つめることをすすめた。
 自分の内に比べる対象はない。同世代も同期もなく、いるのは自分だけ。
 読みながら、青年の気持ちになってリルケの言葉を受け止めた。

(Photo by Ari Hatsuzawa)

 ドラフトは多数の候補生と比較され、一方的に選ばれるが、自分では選べない(断るのは自由だけど)。
 プロの世界に入るということは、その入り口から常に競争なのだ。
 他者との比較から、生き残るために必要な技術、スキルを磨いて、ポジション争いを制する。
 一方で他人と比べられないのは、心の内。それは情熱か信念か、本人のみぞ知る。

 好きなだけでは続けられないけど、好きでないとやっていられない。
 野球だけでなく、何事にも共通するもの。
 佐々木朗希世代とひとまとめに表現されるが、それぞれが孤高の存在として、自分の道を行くだけ。
 ドラフトは選手も、球団側も時の運次第。
 選手になったその先にどんな未来が待ち受けているか、さらにわからない。

 未来の戦力が生まれるドラフトは、「戦力外選手」が公表される時期と重なる。
 野球の光と影の季節、ついに日本シリーズが始まる――。