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生誕百年、大辻清司の自己分析を単行本化「大辻清司実験室」

本書は、前衛芸術の写真家大辻清司(きよじ)(1923~2001)がアサヒカメラの1975年1月号~12月号で展開した連載を再現した。図版は「大辻清司実験室(9)〈なりゆき構図〉」から(C)Tetsuo Otsuji

 彼の名前はよく見てきた。戦後日本の、様々な芸術の現場に撮影者として立ち会ってきた、その名前。ドキュメント写真を数多く残してきた彼が、何を考え、どんな手つきで写真を捉えていたか私は知らなかったが、本書はその疑問に答えてくれる。一人ワークショップとも呼ぶべき企画自体が面白い。自分のことを「実験者」「被験者」「彼」と三人称で呼び、何らかの制約を課して毎回撮影、撮った写真を観察、分析する連載。カメラそのもののような精緻(せいち)な文章には迫力すら感じるが、実は素朴な問いを手放さない、純粋な気持ちに満ちている。はて、自分は一体なぜこんなふうに撮ったんだろう、と。

 「わからない」という言葉が何度か書きつけられる。著者は50歳を過ぎ、もはやベテランの域。だが常に、フレッシュに写真と向き合っているのだ。確実に言えることだけを書き、わかったふりをしない。レンズを向けるその対象への敬意を、彼の写真と言葉を通じて読者は感じるだろう。

 生誕百年を迎えての初の単行本化。ただ、写真が誌面からの複写であるため、粗い。残念だが、当時の判型とレイアウトを再現しており、1975年の写真創造の現場を体験できる貴重な機会だ。=朝日新聞2023年11月4日掲載