「RiCE」は、食をテーマに扱っているが、グルメ雑誌とも料理雑誌とも雰囲気が違う。表紙にはフードカルチャージャーナルとある。
フードカルチャーとは、そのまま訳すと食文化だが、地域の伝統食材だとか、味付けの工夫といった話とは違って、本誌では環境や社会をも含めた大きな視野に立って、食の未来を考えていく。
やや小難しいところもあるけれど、食に関して考え抜くことは、よりよい未来のために避けては通れない。私はグルメにさほど関心がない人間だが、それでも世界の食料問題に対してはうっすら不安を覚えることもあり、たぶんそれは現代人ならみな心の底で感じていることではないだろうか。
ページをめくってみると、食べ物の写真よりもずっと文字が多く、しかもその文字が小さいので年配者には少々つらい。ただそれだけ内容がぎっしり詰まっているという意味では、お得感もある。
最新号の特集は「エシカルフードカタログ」。エシカルとは、倫理的とか良識的といった意味で、本誌では美味(おい)しく、健康に良く、環境に優しいものをエシカルフードと定義しているようだ。
昨今、牛のゲップから大気中に放出される大量のメタンが、地球温暖化の大きな要因のひとつになっているとして問題視されている。同時に、牛を放牧させずに一生牛舎内に閉じ込め、抗生剤を投与しながら育てる畜産のありかたにも疑問が投げかけられており、現代人はエシカルであろうとすれば、牛肉は食べないほうがいいのでは、でも美味しいから食べたい、という矛盾した思いに引き裂かれることになる。こうした問題への肉牛農家の取り組みを紹介した記事を興味深く読んだ。
さらに水産資源の今を語り、ベジタリアンやヴィーガンの声を聞き、食品ロスに関する考察や、世界一サステイナブルと言われるメルボルンのフードシーンを紹介するなど、高い問題意識を掲げながらも、現状をただ嘆くのではなく、やみくもに禁欲的な解決策を提示するわけでもなく、あくまで美味しさにこだわりながら未来を志向する姿勢に、勇気づけられる。
連載は、巻頭に吉本ばななのエッセーがあるかと思えば、研究者やメーカーへのインタビュー、料理本や映画の紹介、漫画、釣りの話など、15本以上もあって充実。なかでも著名人ゲストにこだわりのおやつを聞く「恥ずかしいおやつ」が面白かった。
バックナンバーを見ると、決して堅いテーマだけではない。チョコレートやビール、タイカレー、日本酒、ラーメンの特集などもあり、ふつうにお店探しにも使えそうだ。むしろ最新号が特別に堅い特集だったのかも。ためしに5月号の「おいしい東京」特集も取り寄せてみると、23区の美味しいお店がどかどか載っていた。=朝日新聞2023年11月4日掲載