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歴史的な変遷を概観する「戦争と人類」 詫摩佳代が選ぶ注目新書 

『戦争と人類』

 イスラエルとハマスの軍事衝突を受け、戦争と政治について考える機会が格段に増えている。グウィン・ダイヤー『戦争と人類』(月沢李歌子訳、ハヤカワ新書・1144円)は戦争の歴史的な変遷を概観し、戦争にどのように対処すべきかを論じたタイムリーな著作だ。とりわけ現代に関しては核の拡散、気候変動、大国の入れ替わりが国際秩序をますます不安定化させていると指摘、戦争の問題に対処するためには、多国間制度の維持と拡大が必要だと論じる。
★グウィン・ダイヤー著 月沢李歌子訳、ハヤカワ新書・1144円

『実験の民主主義』

 宇野重規『実験の民主主義』(中公新書・1100円)は、新しい時代における民主主義のあり方、特に執行権の民主的コントロールについて、宇野氏と聞き手の若林恵氏がトクヴィルの思想を手がかりに深い議論を繰り広げる。民主主義における結社=アソシエーションや地方自治の重要性が指摘されて久しいが、デジタルテクノロジーに支えられた今日の社会では、特定の個人などに集団で熱狂するファンダムといった新しい形態が国家とコミュニティを繋(つな)ぐ役割を果たしつつあると指摘する。政府と市民の距離が近くなる中で、各人ができることを「やってみる」ことが民主主義の成熟に繋がりうるという展望は、各読者の心に重く響くだろうし、昨今の国際政治に対しても示唆に富んでいる。
★宇野重規著 中公新書・1100円=朝日新聞2023年11月18日掲載