ジャズを奏でるように身体表現
――今回の台本を読んだ感想を教えてください。
千葉:シンプルに面白かったですね。役者の動きを指定するト書きも今まで見たことがないもので、例えば自分の「ああ」というセリフは「射精した後のような」とあったり(笑)。大団円の場面では出来事と感情の連なりが書かれていて、まるで絵が浮かぶよう……というのは言い過ぎましたが、それが立体的になるのが面白いんですよね。
藤井:筒井さんが作品を書かれたのも、映画になったのも1980年代。当時の表現、当時しかできない表現がやはりありますよね。当時もきっと衝撃の作品だったと思うのですが、それを今の2023年、これだけ表現が制限されたり、クレームが来ないように全方位的に気をつけなくてはいけなかったりする時に、福原さんがどう上演台本にするのか、楽しみにしていました。
結局、原作にある通り、言葉にするのに気を使う言葉が書かれているので、チャレンジングな舞台になりそうです。
――藤井さんは原作も読まれたそうですね。筒井康隆さんについての印象を教えてください。
藤井:原作の文庫版の中に入っている他のお話も面白くて! それに「時をかける少女」も映画館で見ていました。なんて面白い本を書かれる作家さんなのだろうという印象があります。
――舞台化にあたり、一番の見どころはどこだと思いますか?
藤井:試しに一緒に言ってみる?(笑)
千葉:合うといいですけど(笑)。僕は動きだと思います。
藤井:一緒! 全く一緒です。
千葉:ダンスとはまた違った、身体表現が多いんです。ダンスというと、振付に合わせて踊るイメージが強いと思うんですが、そういう要素はありつつも、出てきた感情を我慢せずに表現する場面があるんですね。
藤井:そうそう。演出の方法としても、(舞台上の立ち位置を示す)「0番で踊って」「1番で動いて」といった指示ではなくて、「同じ気持ちになってください」とか「今ここでこういうことが起こっているから、こういう気持ちでセリフが言えるはずですよね」とかそういう指示なんです。
(演出の)福原さんが心の動きをすごく丁寧に教えてくださるので、それがバチっと合わさったとき、結果、みんな同じ動きをしていたりするのが面白いなと思います。
――振付はありつつも、ある程度即興的な動きがあるということですか。
藤井:稽古途中の段階で断定はできないんですけど、決められた踊りや振付を覚えてくださいということは全くなかったですね。
千葉:ちょうど今日やった稽古だと、その場で起こったことや、目が合った相手の気持ちを感じて、共鳴しあったり反発しあったりしながらエネルギーを生み出す感じです。「こう返さなければいけない」という決まりはなくて、本当にジャズを奏でているイメージです。
「俳優になる前から藤井さんの大ファン」
――今回が初共演となる千葉さんと藤井さん。お互いの印象は?
千葉:各メディアでお伝えしているのですが、僕は俳優になる前から藤井さんの大ファンでした。なので、共演が本当に嬉しいです。
ちょうどこの舞台が決まる前に、とある番組でご一緒して、そのときも写真を撮ってくださって、「ああ、一生の思い出にしよう」と思っていたら、この舞台のお話をいただいて!
今、稽古場では隣の席に座っていて、今こうやって一緒にインタビューを受けてお話していることが信じられない。撮影した写真のデータ、全部別途いただきたいぐらいです(笑)。
藤井:本当に勿体ないお言葉です。というのも、「実はファンです」「 隠れファンです」とよく言われるんですね。応援してくださっていることには変わりがないからありがたいんですけど、もっと表に出てきてくださいと思うんですね(笑)
でも彼はこんなに真っ直ぐ、しかも青年らしく、はみかみながら愛情を伝えてくれた。本当に嬉しかったですよ。前の番組収録も楽しかったですし、今回舞台の出演オファーをいただいて、「絶対やらせてください」と即答しました。
千葉ちゃんと共演できることもそうですけど、福原さんが呼んでくださったことも嬉しいですし、筒井先生原作の作品に自分が携わることができるなんて思ってもいなかったので、その点も嬉しい。全部が嬉しかったです。
――“ファン”と共演するのは、なかなかやりづらいのでは?
千葉:いやいや、隣の席だから「このタイミングでこれ食べるんだ」とか「これ好きなのかな」とかずっと観察しているわけではないですから! 役者同士、やるときはやっていますよ(笑)。
藤井:皆さんご存知だと思うんですけど、千葉ちゃんは本当にマナーがいいから、物足りないぐらいです。あんなに「好き」と言ってくれたのに! ……冗談です(笑)
今回の役は僕が千葉ちゃんに仕える設定ですから、キャッキャッとはしゃぐわけにはいきません。自然と「殿」と言えるぐらいの距離感でいてくれて、空気を作ってくださるので、ありがたいですよ。僕もついつい話しかけてキャッキャッしたくなるんですが、グッと堪えています。
――千葉さんは今回の共演を通じて、藤井さんに対してより憧れを強くした部分はありますか?
千葉:藤井さんは場を巻き込む力があるんですよね。例えば、なかなか方向性が見出せないシーンがあったときに、藤井さんが動いて見せてくださったからこそ、僕自身も「なるほど、こういうことか」と気づきがあったりして。ますます素敵だなとファンになっています。
――今回は生演奏も見どころの一つだと思います。お二人とも「ジャズ」に関してはどうですか?
藤井:千葉ちゃんはジャズを聴く?
千葉:ジャンルとしてはロックを聴くことが多かったので、正直あまり馴染みはないです。ただ、ヒャダインさんと「帝国劇場カラオケ」というものをやっていて。
藤井:何をやっているの(笑)。
千葉:ヒャダインさんの生演奏のもと、既存のJ-POPを帝国劇場で行われるミュージカル風に歌う遊びです。その中にブルーノートバージョンがありました。
藤井:高尚な遊びですけど、面白そう! きっとレストランやラウンジなどでジャズは頻繁に耳にしてきていると思うんですが……。映画の「ラ・ラ・ランド」の音楽もジャズですよね? ああいう音楽を聞くと、なぜ今まで自分が通ってこなかったのかなと思うぐらい、高揚感がありますよね。好きなジャンルです。
今回の舞台は生演奏。ぜひ劇場にお越しいただきたい理由のひとつでもあるので、実際にミュージシャンの方が演奏している音楽を肌で感じていただけたら嬉しいなと思います。
明日の活力になるような作品に
――「好書好日」は本のサイトなのですが、普段お二人はどんな本を読まれるのですか? 好きな作家や作品があれば教えてください。
千葉:僕は吉本ばななさんと少しだけ接点があるのですが、すごく不思議な感覚なんですよね。「教科書に載っている『キッチン』の作者」から「千葉さんの舞台、観ましたよ」などと声をかけてくださるなんて(笑)。
今はヒコロヒーさんのエッセイ『きれはし』 を読んでいます。まだ途中なのですが、面白いです。
藤井:子どもの頃は、星新一さんなどSFものが好きだったんですが、何かのタイミングで横山秀夫さんの作品を読んでから警察小説が好きになりました。事件が起きて、解決するために多くのページを割いて、それで事件が解決したときの達成感が、胸に来るんです。
また、これまで何回も読み直しているのは、三浦綾子さんの『氷点』。主人公の陽子ちゃん以外は嫌だなと思う人が出てくるんですね。別に具体的に設定を当てはめているわけではないのですが「いろいろな人がいて、いろいろなことが起こる」というメッセージに共感したくて、自分が人間関係や仕事関係で悩んでいるときについ読んでしまうんですよね。
――最後に、どんな人にこの舞台を観てほしいですか?
千葉:時代劇というと歴史的な背景が絡んできて敷居が高いと思われる方もいるかもしれませんが、今回の「ジャズ大名」は言葉が現代的になっていて、僕も自分が出ていないシーンを見ていて笑ってしまうぐらい、面白いです。
最初の印象だと「祭りみたいな作品」と思っていたんですね。もちろん今もそう思っているところもあるんですけど、その先にある何かを感じたいなと思っています。ラスト20分ぐらい踊り続けて、その先に僕たちは何が見えるのか、お客さんは何を思うのか。それが楽しみですね。おこがましいですけど、皆さんの明日の活力になるような作品にしたいです。
藤井:12月から1月にかけてこの作品をやれるのがすごくいいなと思っています。「寒いな」と思いながら劇場にお越しいただいて、帰るときには「もうコート要らないや」と思っていただけるぐらいのエネルギーの交換ができると思うんです。
コロナ禍でなかなか大変でしたよね。お客さんも笑い声が出せなかった分、舞台のカーテンコールではびっくりするぐらいの拍手をしてくださいました。今、まだまだ気は抜けないですけれど、スタッフの皆さんも出演者も劇場でお待ちしております。寒いですが、わざわざお越しいただけたら、こんなに嬉しいことはないです。すごく楽しいものになると思います。