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瀬戸康史さん舞台「A Number―数」インタビュー クローン含む1人3役「根本は普遍的なテーマ」

瀬戸康史さん=junko撮影

初共演で挑む2人芝居

――まず、本作への出演が決まったときはどう思いましたか。

 実は7年前に演出のジョナサン・マンビィさんのワークショップに参加したことがあるんです。30人ぐらい役者が参加していたんですが、誰かの意見を否定するわけでもなく、それぞれの役者と楽しそうにディスカッションする姿が印象的で、いつかご一緒したいなと思っていたので、今回、お声がけいただいたときには「ぜひ!」とお答えしました。

 そして、堤真一さんとは初共演です。何度も見ているドラマ「やまとなでしこ」の印象が強いですが、コメディーからシリアスまで幅広い表現ができる方ですよね。今回、ご一緒できることがすごく嬉しいです。

――稽古場での様子を教えてください。ジョナサンさんはどんな演出家だと感じていますか? また、堤さんとはどんなことを話しますか?

 僕だけでなく、人が発する言葉や表現に対してすごく興味があって、いい意味で7年前と変わっていないなと思いましたね。否定することは一切なくて、「そういう意見もありますね」「それ面白いですね」と受け入れてくれます。

 今回、僕の演じる役の一人が妻と別れている設定なのですが、「その妻の名前は?」と聞かれたんですね。「妻と別れて……」というセリフぐらいでしか出てこないのですが、名前を“トレイシー”と決めて、存在を具現化させようと思ったようです。そういう細かいところまできっちりやる演出家さんです。

 堤さんは、初めてお会いしたときに「スーパーで見たよ」と言われたんです(笑)。気さくに話しかけて、こちらの緊張をほぐしてくれたので、ありがたかったです。本読みの稽古中は本当に濃密で、お互いに集中していたので雑談らしい雑談をした記憶がありません。「雨降りそうだね、早く帰ろう」ぐらいしか話していないかもしれません(笑)

――舞台「笑の大学」(2023年)でも2人芝居に挑戦された瀬戸さん。2人芝居についてはどんな印象をお持ちですか。

 楽しみでしかないですね。「笑の大学」をやる前は、場を2人だけで成立させなくてはいけないわけですし、自分にそんな力があるのだろうかと不安もあったんです。でも、(演出の)三谷(幸喜)さんや(共演の)内野(聖陽)さんのおかげで、ちゃんと芝居として成立して、たくさんのお客様に見ていただいて。2人芝居の難しさと面白さを知ることができました。

 何より役者が2人しかいないので、ずっと稽古できるんですよ。誰かの稽古を見るのももちろん楽しいんですけど、役者同士の仲も、演出家やスタッフさんとの絆もより深く感じられると思うんです。いろいろな人の力を借りて頑張りたいなと思っています。

「自分のクローンがいてもいい」

――本作は、クローン技術が進み、人間のクローンをつくることは技術的に可能となったけれど、法的にはグレーゾーンという近未来的なお話です。作品を読んで、どんなメッセージを感じましたか?

 人間が足を踏み入れてはいけないことをやっているという印象を受けつつも、最後に僕が演じるクローンの1人である人物は、とてもポジティブな生き方をしているんですよね。それは彼の育った環境が良かったからだと思うんですけど、僕もいろいろなことをポジティブに転換できる生き方をしたいなと思っているので、すごく共感しましたし、最後に希望が持てるのは彼のおかげかなと思います。

 クローン技術については、倫理的にいろいろ問題はあるとは思いますが、クローンそのものは存在してもいいと思っています。クローン技術の専門家を稽古場に招いてお話を聞く機会があったのですが、その先生が「クローンはオリジナルとは別です」と強くおっしゃっていた。僕もそんな感じがするんですよね。

 だから仮に僕のクローンがいたとして。確かに顔が僕と似ていたとしても、その人がどう生きてきたかによって、僕より老けて見えるかもしれないし、若く見えるかもしれない。髪型も服装も趣味も思うこともきっと全然違ってくるだろうし、「僕とは別の人」として見られると思います。

――ちなみに、瀬戸さんのポジティブな生き方は、どんな環境によって獲得したのでしょうか?

 僕は福岡の田舎で育ったんですね。自然豊かな場所で、心が豊かになったというのもあるでしょうし、地元のお祭りに積極的に参加してきたので、ハッピーなメンタルになったのかもしれません(笑)

 とはいえ、上京したての頃はまだまだ子どもで、いろいろマイナスに考えていたと思います。そういうネガティブな自分も嫌で、無理やり笑ったり、面白いものを見るようにしたりしていました。

――キャリル・チャーチルの戯曲は観念的なセリフがあったり、相手のセリフの中にセリフが入り込んでいたりと、覚えづらそうだなと思うのですが。

 ……まぁ、頑張るしかないですよね。この話はどういう話なのか、このセリフはどういうことを言っているか、このセリフの後には何が続くのか。本を読みながら、みんなで考えたり、深めたりする作業を重ねてきました。

 話が行ったり来たりするので、序盤の本読みでは、僕もよく分からず話していた部分もあったのですが、演者がしっかりとセリフを理解していれば、この作品が伝えたいものは何かしらお客様に持って帰ってもらえると信じています。

――本作のどんな部分に難しさを感じますか。セリフの内容ですか、それともテーマ性ですか。

 一番カロリーを使うのはセリフですね。相手に直接何かを言うところももちろんあるんですけど、 ちょっとまわりくどく、例えを通して「俺はこういう人間なんだ」と訴えかけることもあるので。でもその分、聞いている側もセリフからいろいろと想像できると思うし、そこがこの作品の面白いポイントの一つかもしれません。

 テーマに関しても、確かにクローンというちょっと未来的な要素はあるんですが、根本にあるのは「自分とは何だろう」といった普遍的なテーマ。作品が言おうとしていることは案外ストレートだと思うので、あまり「難しい」と思わずに観にきてほしいですね。

一つひとつみんなで積み重ねてつくる。

――ところで瀬戸さんは普段、どんな本を読みますか。

 オカルトやホラーが好きなんですが、最近では田口翔太郎さんの『裏バイト:逃亡禁止』(小学館)が面白かったです。ぶっ飛んだSFの回もあるんですが、「日常でありそうだな……」という気持ち悪さがたまりません。絵がめちゃくちゃ上手いです。ぜひアニメ化してほしい作品です!

――漫画はどのように選ぶんですか。

 Kindleで本を購入するとおすすめ作品が出てくるじゃないですか。そのおすすめ作品を選ぶことが多いですね。

――瀬戸さんの人生を変えた一冊や、何度も読む作品はありますか。

 何回も読んでいるのは、真島ヒロさんの『RAVE』(講談社)と岸本斉史さんの『NARUTO』(集英社)です。「結構前に出てきた話の伏線をここでするのか!」とゾクゾクする展開が好きで、内容を知っていても何度も読んでしまいます。

 『NARUTO』については、小学生ぐらいから何度も読み返してきました。完璧で立派なヒーロー像ではなくて、「落ちこぼれ」と言われている人たちが自分を認めてあげたり、「落ちこぼれ」を原動力に頑張ったりする姿に惹かれたのだと思います。

――最後に、観客の皆さんに伝えたいことはありますか。

 稽古場では、脚本を丁寧に紐解く作業をしてきました。演劇って、こういう一つひとつを積み重ねて、みんなで作るものだなと改めて感じていますし、お客様が観てくださってやっと完成すると思うんですね。ぜひ「難しそう」などと変に構えずに、チラシの裏やホームページに書いてある程度の情報を少しだけ頭に入れて、気軽に観てもらえれば嬉しいです。